研究課題/領域番号 |
15K21410
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
片桐 綾乃 日本大学, 歯学部, 助教 (40731899)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 神経障害性疼痛 / 慢性ストレス / エピジェネティック制御 / 三叉神経節 / サテライトグリア細胞 / 末梢感作 |
研究実績の概要 |
舌神経損傷モデルラットを開発し、同モデルで舌への熱・機械刺激に対する逃避閾値が低下することを確認した。末梢神経の神経細胞体が存在する三叉神経節において、神経細胞体およびサテライトグリア細胞における各種分子動態の変化を免疫組織学的に解析した。舌神経損傷により、三叉神経節細胞にてカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)の発現が増加し、神経細胞体に表現型の変化(エピジェネティック制御)が生じていることが認められた。また、その変化に対して、サテライトグリア細胞におけるERKのリン酸化が寄与することも証明した。続いて、三叉神経節にCGRP受容体のアンタゴニストであるCGRP8-37、またはERKのリン酸化阻害薬であるPD98059を投与した。その結果、舌への熱・機械刺激に対する逃避閾値の低下が抑制され、三叉神経節におけるCGRP陽性細胞の減少、サテライトグリア細胞におけるERKのリン酸化抑制、サテライトグリア細胞の活性化の抑制が確認された。 さらに、神経障害性疼痛の増悪に関わる重要な因子の1つと考えられる身体的・心理的ストレスを負荷すると、口腔内へのカプサイシン刺激(C fiber刺激)に対する嫌悪反応が生じることが分かった。 これらの結果より現在のところ、身体的・心理的ストレス状態や神経障害性疼痛発症時の三叉神経節では神経細胞体のエピジェネティック制御によりCGRPの分子動態が変化し、さらにERKのリン酸化を介してサテライトグリア細胞の活性化が生じ、口腔内のTRPV1の分布様式が変化することにより疼痛が惹起される可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本実験系での末梢神経系における分子動態の変化は免疫組織学的には明らかになりつつある。しかし、三叉神経節からの細胞外神経活動記録に必要な機器の故障があったため、神経活動記録のデータ取得がやや遅れている。また、予備実験より、身体的・心理的ストレスを負荷した際のカプサイシン刺激に対する嫌悪性に性差が関与することが明らかとなり、雌ラットも用いて行動観察実験、免疫組織学的解析を行っている。したがって、申請当初の雄ラットのみを使用する実験計画と比較すると進捗状況は遅れていると言わざるを得ないが、本研究自体の幅は広がっていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
予備実験より、身体的・心理的ストレスを負荷した際のカプサイシン刺激に対する嫌悪性に性差が関与することが明らかとなった。これにより、申請当初の計画には含まれていなかった雌ラットを用いた実験も遂行していく。さらに現在までは、侵害刺激に対する行動観察のみを行っているため、身体的・心理的ストレスを負荷された際の行動観察も行い、ストレス状態の客観的評価をデータに加える。また、今後は28年度の実験計画に従い、三叉神経脊髄路核尾側亜核における分子動態および神経活動性の変化を免疫組織学的手法および電気生理学的手法を用いて解明し、国際学会での研究成果発表と国際雑誌での論文発表を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
神経活動記録実験がやや遅れており、申請当初の予定より購入する電極の本数が減少したため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額分は、電気生理学的実験に用いる電極の購入に充てる。28年度の研究費は、雄ラットに加え雌ラットの購入に関わる費用の増加が予想され、さらに、身体的・心理的ストレスの客観的な評価を行う機器の購入を予定している。免疫組織学的実験・電気生理学的実験に使用する薬剤、消耗品、および論文投稿に関わる費用は、概ね申請当初通りとする。
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