本研究は2011年度よりわが国で実施されている環境保全型農業直接支払(環境支払)制度の普及・定着のあり方を、地域比較研究を通じて明らかにするものである。今年度はこれまでの現地調査結果に基づき、制度活用のあり方の地域比較を行った。作目は稲作に限定し、地域の農産物認証制度および農協販売態勢と制度の関係に着目した。 結果の概略は次の通りである。環境支払の支援対象取組は都道府県ごとに設定される「地域特認取組」を含め、市町村・県が実施する環境保全農産物認証の要件と一部重なり合っている。その重なり方には2タイプあり、1つは助成単価の比較的低い取組の支払実績が多く、それが農産物認証の選択的要件となっているタイプ、もう1つは助成単価の高い取組の支払実績が多く、それが認証の必須要件となるタイプである。新潟県佐渡市や滋賀県は前者に該当し、農協集荷量の2~4割を認証農産物が占めていた。一方、宮城県大崎市や兵庫県豊岡市は後者であり、認証農産物シェアは1割台またはそれ未満にとどまっていた。経営事例分析から、滋賀県長浜市では比較的難度の低い取組の広範な普及、豊岡市では難度の高い技術導入によるステップアップが図られていた。こうした環境保全技術および農協販売面の地域差に応じて、環境支払制度活用のあり方は異なる実態を明らかにした。 従来の農業環境政策論では、農業者と社会の責任分界点=レファレンスレベルを上回る取組に対して直接支払等の政策的支援を行うべきとされてきた。本研究の成果は、一定のレファレンスレベルを設定したとしても、支援対象取組の難度・助成単価の適切な水準は地域的条件や産地戦略により異なりうることを示唆している。これは環境保全型農業直接支払制度の改善に向け、重要な知見であると思われる。 今後、以上の研究成果を論文投稿する予定である。
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