過年度に引き続いて,資金調達と寡占市場での競争の関係について分析を進め,企業の財務状態が企業の最適借入契約とその下での投資行動に及ぼす影響と,それが企業間の競争結果と産業構造に及ぼす影響について明らかにしてきた。本研究の成果の一部は,11月に関西学院大学で開催されたMAEDA(Meeting on Applied Economics and Data Analysis)で報告した。現在は,報告の際に受けたコメントをもとに,分析結果の頑健性を確かめ,また,応用可能性を高めるため,市場の不確実性に関する設定を変えた場合の分析を進めている。 新型コロナウィルス感染症の流行のため,3月中の研究活動に支障が生じたため,最終的な成果物となる論文の完成とその公表には至っていないが,早期に,論文を完成させ,査読付き雑誌に投稿し,公刊を目指している。 本研究期間全体を通じて,最適借入契約の問題を明示的に扱った理論モデル分析によって,企業の財務状況と競争結果・産業構造との関係に関する理論をより精緻化することができた。また,既存研究では,理論と実証の結果に不整合が生じていたが,本研究における多角化企業の行動に関する結果を用いると,関連分野における実証研究の結果を整合的に説明できることが分かってきている。更に,本研究の成果は,企業財務と産業構造に関する今後の実証研究に対して,理論的仮説を提供することができる。 そのほかに,本研究期間において,最適借入契約のモデルを用いて,企業の財務状態と企業間信用の利用の関係,および資金調達時の情報構造と資金配分の関係について分析し,成果を所属機関の紀要である『経営志林』にて公表した(宮澤(2017年),Miyazawa (2018))。
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