研究課題/領域番号 |
15K21419
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研究機関 | 星薬科大学 |
研究代表者 |
田口 久美子 星薬科大学, 薬学部, 助教 (20600472)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 血管内皮機能不全 / 分子薬理学 / GRK2 |
研究実績の概要 |
糖尿病は遺伝的素因と環境素因が複雑に絡み合い、多くの疾患を合併している場合が多く、これら疾患に共通した病理学的特徴は、血管障害であることが知られている。しかしながら、血管内皮細胞レベルで起こっている複雑な変化は未解決な部分が多い。申請者がこれまでに糖尿病性血管合併症においては、GRK2がAktの上流にて血管弛緩因子であるNOの制御をかけていることを明らかにした。そこで、本研究では、GRK2は糖尿病時にどのように誘導されるのかというメカニズムを解明し、GRK2の病態生理学的な意義を明らかにすることを目指している。本年度は、血管障害の病態生理を検討し、GRK2阻害薬となりうる薬品を探索すべく糖尿病性血管合併症モデルマウスを用いて検討した。その結果、以下の結果を得ることができた。 1.STZ誘発糖尿病性血管障害モデルマウスの胸部大動脈は、Morinと呼ばれるポリフェノールによって刺激することでGRK2によって制御をうけるAkt/eNOS経路を活性化し、内皮依存性血管弛緩反応を活性化することが明らかとなった。さらに、実験的2型糖尿病モデルマウスの胸部大動脈には、Resveratrolと呼ばれるポリフェノールが効果的であることが明らかとなった。GRK2制御とMorinやResveratrolの関係について、詳細に検討していくことを予定している。 2.STZ誘発糖尿病ラットより採取した血小板由来のマイクロパーティクルは、糖尿病時に増加しており、血管弛緩因子であるNOを産生させるNO合成酵素(eNOS)の発現を減少させることを明らかにした。GRK2はeNOS活性によるNO産生を制御していることから、血小板由来マイクロパーティクルがGRK2を誘導しているのではないかと考え、詳細な検討を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、①培養細胞系を確立させ、GRK2過剰発現時または欠損時における血管障害発症メカニズムを解析していくことと②糖尿病病態時におけるGRK2制御の全身への影響を検討していくことを予定していた。①に関しては培養細胞系を確立させ、基礎データを蓄積中である。②に関しては、PowerLabを導入したことで、格段にデータ収集スピードがあがっていると考えている。糖尿病モデルマウスを用いた実験においても、マイクロパーティクルやMorin・Resveratrolに関する全く予期していなかった多くのデータを集めることができた。これらのことを総合的に判断し、現在、概ね順調に進捗していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、本年度の研究によって、糖尿病時における血管内皮障害のシグナル異常には、血小板由来マイクロパーティクルが密接に関与していること、それにはGRK2が関与している可能性があること、また、GRK2阻害作用がMorinやResveratrolにある可能性があり検討の余地があることが明らかとなった。このように、本年度の培養細胞実験系の確立によって集めたGRK2の基礎的データをもとに、さらに動物実験を重ね、GRK2を分子標的とする阻害薬投与またはsiRNA投与による臨床応用への基盤データを積み重ねていくことを予定している。特に、様々なタイプの糖尿病モデル動物にGRK2阻害薬やGRK2 siRNAを連続投与することで、血管内皮細胞障害に対するGRK2の関与ばかりでなく、他の臓器(筋肉、肝臓、腎臓等)への影響を検討することで、GRK2阻害薬やGRK2 siRNAが特異的に血管へ作用したのか、他の臓器においてインスリン抵抗性改善等の効果により内皮機能が改善した2次的な効果なのかを検証し、どこの臓器へ特異的にGRK2阻害薬やGRK2 siRNAを送達させる必要があるのかを明らかとし、臨床応用への基盤を作りたいと考えている。胸部大動脈においては、NO産生シグナルが血管緊張性調節に重要であり、本研究で見出された成果が糖尿病性血管障害に対する治療戦略の一助となるようさらに努力を重ねていく所存である。
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次年度使用額が生じた理由 |
培養細胞系立ち上げに時間をさいたため、in vivo実験に必要なPowerLab購入が若干遅れた。そのため予定していたよりも動物実験が年度後半に行うことになってしまい、次年度に繰り越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
上記理由により、若干今年度使用額が少なかったが、現在、培養細胞系も立ち上がり、PowerLabのセッティングが終了したので、実験がすでに開始されている。よって、今年度使用予定であった分で培養細胞および動物を購入する予定でいる。
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