研究課題
糖尿病は遺伝的素因と環境素因が複雑に絡み合い、多くの疾患を合併している場合が多く、これら疾患に共通した病理学的特徴は、血管障害であることが知られている。しかしながら、血管内皮細胞レベルで起こっている複雑な変化は未解決な部分が多い。そこで、本研究では、GRK2は糖尿病時にどのように誘導されるのかというメカニズムを解明し、GRK2の病態生理学的な意義を明らかにすることを目指した。本年度は、血管障害の病態生理を検討し、全身へのGRK2特異抗体投与の効果を糖尿病性血管合併症モデルマウスを用いて検証した。その結果、以下の結果を得ることができた。1.自然発症2型糖尿病モデルマウスへGRK2siRNAを投与し、全身性にGRK2発現を検討したところ、肝臓や心臓、胸部大動脈等でGRK2発現の増加・蓄積が確認された。その中でもGRK2siRNAは肝臓において効果的にGRK2を抑制し、脂質代謝や糖代謝を改善させた。その結果、胸部大動脈のGRK2発現を減らすことなく、血液環境を正常化させるだけで、血管機能を改善させる可能性がみいだされた。2.擬似的な糖尿病性血管障害を引き起こした状態の血管内皮細胞系を構築した。血管内皮細胞へ高グルコース・アンギオテンシンIIを処置しGRK2発現の増加を確認した。この内皮細胞から産生された細胞外小胞(EVs)を正常マウスの胸部大動脈へ処置したところ、血管内皮障害が確認された。この機序として、ERK1/2の活性上昇や血管弛緩因子であるNOを産生させるNO合成酵素(eNOS)の発現減少が関与していることが明らかとなった。GRK2はeNOS活性によるNO産生を制御していることから、内皮細胞内のGRK2増加・蓄積がEVsを誘導しているのではないかと考えているが、詳細な検討はこれからである。
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