研究課題/領域番号 |
15K21438
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山本 瑞生 東京大学, 医科学研究所, 特任研究員 (90750365)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 乳癌 / 癌幹細胞 / 乳腺上皮細胞 |
研究実績の概要 |
乳癌は発現プロファイルによって悪性度や治療戦略の異なるサブタイプに分類される。中でもトリプルネガティブ乳癌(TNBC)は治療標的であるエストロジェン受容体(ESR), プロゲステロン受容体(PGR), ERBB2を発現せず有効な分子標的治療法が無く予後が悪い。申請者はこれまでに乳癌細胞株を用いてTNBCの大半を占めるBasal-like乳癌で転写因子NF-kappaB活性化が細胞間相互作用を介して乳癌幹細胞を維持する事を示してきた。腫瘍中におけるより詳細な乳癌幹細胞維持機構の解析を目指し、27年度においてはC3プロモーター下流でSV40Tagを発現するBasa-like乳癌モデルマウスに発生する乳癌を用いて乳癌幹細胞の濃縮・単離を試みた。 まず最初に正常な乳腺上皮細胞をLuminal細胞、basal細胞に分離可能なCD24/CD49f抗体を用いて腫瘍細胞を分離すると、検討した多くの腫瘍ではCD24およびCD49fを中程度に発現する集団が見られ、1例において正常Luminal細胞と同様のプロファイルを示す腫瘍が見られた。次にCD24およびCD49fを中程度に発現する腫瘍において、正常Luminal細胞を成熟細胞と前駆細胞に分離可能なCD61およびScaI抗体を用いて分離すると、興味深い事に全例において腫瘍細胞はLuminal前駆細胞マーカーであるCD61を強く発現していた。また、2例において成熟マーカーであるScaIについては陽性細胞と陰性細胞の両画分が見られた。そこでCD61陽性/ScaI陰性画分とCD61陽性/ScaI陽性画分を分取し、ヌードマウスへ移植して腫瘍形成能を評価したところ、正常Luminal前駆細胞と同様のプロファイルを示すCD61陽性/ScaI陰性画分において強い造腫瘍性を示す事が分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
C3Tagマウスに発症する乳癌腫瘍中から乳癌幹細胞を濃縮する方法について表面抗原を用いた分離法を検討し、ScaI発現の有無によって乳癌幹細胞画分を濃縮出来ることが分かった。しかしながら腫瘍によってはScaI発現が見られないものも存在した。これまでに、C3TagマウスはSV40Tag発現によりp53やRbの機能が抑制されることによって細胞死やDNA修復機構が抑制され、ゲノム変異の蓄積によって癌遺伝子の活性化が起きて癌化することが知られており、H-ras遺伝子の活性化変異が報告されている。腫瘍毎のScaI発現の有無はこうした癌化の引き金となる遺伝子の種類によって依存する可能性が示唆される。そこでScaIを発現し、癌幹細胞画分を濃縮可能な腫瘍を選別して発現プロファイル等を解析する必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は現在までの進捗状況に述べたように、ScaI発現によって乳癌幹細胞を濃縮可能な腫瘍とそうでない腫瘍の違いを解析し、どういった原因による腫瘍でScaI発現による乳癌幹細胞画分の濃縮が可能であるかを解析する。得られた特徴をヒト乳癌腫瘍の発現プロファイルと照らし合わせる事で、ヘテロな集団と言われているBasal-like乳癌をより体系的に細分化することが可能となると考えられる。また、ScaI陰性で造腫瘍性の高い乳癌幹細胞画分とScaI陽性で造腫瘍性の低い画分についてRNAシーケンスによる遺伝子発現解析を行い、造腫瘍性の機構や腫瘍内における乳癌幹細胞維持機構を解析する。さらにC3Tagマウス由来の腫瘍を用いた、ALDH活性化や細胞周期による乳癌幹細胞濃縮についても検討を行い、ScaIによる濃縮との比較を行いC3Tagマウスの乳癌幹細胞の性質の理解に向けて研究を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
27年度の研究からC3Tagマウスから得られた腫瘍にはScaIで癌幹細胞を濃縮可能なタイプとそうでないタイプが存在することが分かった。遺伝子発現の網羅解析を行う前に、表面抗原やシグナル伝達の活性化の有無を評価して腫瘍のサブタイプをより詳細に分類する必要がある。
|
次年度使用額の使用計画 |
上記理由により、腫瘍毎の性質を明らかにした後に、次年度に次世代シーケンサによって乳癌幹細胞画分と腫瘍細胞画分における遺伝子発現の相違を検討する。このために次年度使用額を用いる予定である。
|