研究実績の概要 |
乳癌は発現プロファイルによって悪性度や治療戦略の異なるサブタイプに分類される。中でもトリプルネガティブ乳癌(TNBC)は治療標的であるエストロジェン受容体(ESR), プロゲステロン受容体(PGR), ERBB2を発現せず有効な分子標的治療法が無く予後が悪い。腫瘍内における乳癌幹細胞維持機構の詳細な解析を目指し本研究では、Basa-like乳癌モデルマウスを用いて乳癌幹細胞を単離し発現プロファイルを解析して、新規治療標的を発見し治療戦略の提唱を目的とした。 昨年度までの研究からBasa-like乳癌モデルマウスであるC3-Tagマウスに発生する乳癌のうち乳腺上皮細胞の成熟マーカーであるScaIを発現する細胞と発現しない細胞が混在する乳癌においてSca1非発現細胞が高い造腫瘍能を示す結果が得られていたが、Sca1を全く発現しない乳癌も多く得られ、必ずしもSca1が癌幹細胞の機能発現に重要とは言えないことが分かった。一方で同様にTNBCを発症するp53欠損マウスの乳腺上皮細胞に活性化Rasを導入することで発症する乳癌は1000細胞と少数の移植であっても1ヶ月で腫瘍を形成する像腫瘍性の非常に高いものであった。この腫瘍には全例において上皮マーカーEpCAMを発現する集団と発現しない間葉系細胞の集団が含まれており、上皮間葉転換(EMT)による間葉系細胞の出現が造腫瘍性や癌幹細胞性に関与することが既に報告されているため、今年度はTNBCにおけるEMTとMETのバランスの制御に着目して研究を進めた。その結果、活性化Rasを導入した乳癌と同様にBasal-like乳癌の細胞株であるHCC38細胞、HCC1143細胞では上皮様と間葉様の細胞が混在していることを見出した。この細胞株を用いた解析からEMT/METが恒常的に起こって両者のバランスを制御していることを見出した。
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