本研究の目的は、南アジアにおけるイスラーム改革思想の形成について明らかにすることにある。イスラーム改革思想の両輪は法学とイスラーム神秘主義にあるとされ、それぞれの学問の師弟関係について、伝記資料に基づきながら明らかにしてきた。イスラーム改革思想はアラビア半島で生まれたが、南アジアとアラビア半島の学者たちは師弟関係で結ばれており、地域を超えた共時性を指摘することができる。 本年度は、(1)師弟関係を分析するために必要なデジタル・ヒューマニティーズの研究手法を試行することと、(2)南アジアにおけるイスラーム神秘主義の伝承を解明することに焦点を当てた研究を行った。 (1)については、ネットワーク視覚化ソフトGephiを用いた15-17世紀の天文学者29名の分析、アラビア語OCRソフトの使用に必要なプログラミング言語Pythonの習得、KH Coderを用いたイスラーム神秘主義文献のテキストマイニング分析などを行なった。複数のデジタル・ヒューマニティーズの研究手法について習熟度が向上した。 (2)については、インドのナクシュバンディー教団における存在一性論を例に、師弟関係のつながりが思想の伝承と一致しているかを文献の記述から考察した。必要な文献の収集や解読を終えていないものの、師弟関係と思想のつながりは単純には一致しないことを裏付けつつある。 考察範囲を明確にするため、ネットワーク分析は研究の前提として必要であるものの、思想の伝承を考察するためには文献研究が基本となることが改めて確認された。仏教における師弟関係と思想のつながりを考察した先行研究などを参考に、今後はテクストマイニング分析を用いた文献研究を試行していく予定である。
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