研究課題/領域番号 |
15K21448
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研究機関 | 明星大学 |
研究代表者 |
石野 由香里 明星大学, 明星教育センター, 准教授 (20734081)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 演劇的手法 / ライフストーリー / 高齢化団地 / 人類学 / ワークショップ / フィールドワーク / 他者理解 / 支援 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、第一に社会的課題を抱えた現場で応用演劇実践事例の調査を行い、外部者の役割について分析すること。第二に、国内の社会的課題を抱えた現場で実践を試み、「他者を演じる(学部者が当事者の代弁者となる)」機能と効果を明らかにすること。第三に、本手法を外部者と当事者が共に行うことで新たな視点を得、対話を促し、当事者がエンパワーメントされる過程を明らかにすることである。 目的を遂行するために、新たな演劇的手法を開発した。調査の結果、この手法は他者に対して当てはめていた枠組みの存在に気づき、自分の見方を相対化することで、先入観に囚われずに相手を捉えるように変化した。さらに、調査対象地(高齢化団地)で起きた住民に対する排除的な行動をめぐる出来事を学生たちが再現し、参加型演劇を用いて上演した結果、演じ手の変容プロセスをみることで、観客も変容(=自分の見方を相対化することで、先入観に囚われずに相手を捉えるように変化)を促されること、演じる対象を入れ替えながら演じ合うことは互いの変容を促進すること、観客や演じ手として参加した地域住民が変容することで、コミュニティ内の人間関係も変化することが明らかになった。 本年度は主として成果報告に力を注いだ。特に、本研究の成果をまとめた博士論文の出版化に向けて、編集作業を進めた。さらに、本研究の成果をまとめた共著も2冊出版された。一方で、新たに活動の成果をまとめたDVDの作成やホームページ作成等を見据えた映像編集作業を進めている。 また、研究対象を親子に広げ、演劇的な手法の開発に向けて、作曲家や演奏家、演出家と協働で参加型演劇作品に取り組みつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
成果発表については、予定していた報告書はもちろんのこと、文献調査・現地調査の結果を総合的に分析し、理論化した内容を博士論文にまとめ発表した。また、複数の学会での口頭発表、海外の演劇教育専門誌を含めた複数の学会誌上の論文掲載、共著の出版(書籍化)等、当初計画していた成果発表も既におこなってきた。また、様々な研究会やシンポジウム、自主公演などの機会を設け、実践の一部を発表(上演含む)してきた。今年度は研究成果をまとめた共著を二冊刊行した。それぞれ、社会学と人類学の分野に演劇的手法の可能性を提示する内容であり、学際的な研究として位置づけられる。 一方で、研究に取り組む中で、新たに必要性を認識した成果発表方法として、活動の成果をまとめたDVDの作成やホームページ作成等を見据えたインターネット上での公開がある。この方法に関しては、これまでの実践を記録してきた映像を分析し、編集することにより、紙媒体では伝えにくい本研究の実践内容を公開し、他地域へ還元するために重要であると考え、2019年度に編集をはじめたものの、膨大な映像資料の整理に時間を要している。 さらに、2019年度から親子の支援現場を対象に加えた。演劇的な手法の開発に向けて、作曲家や演奏家、演出家と協働で参加型演劇作品に取り組んだ。それに先立ち、親子を支援するための音楽と演劇、および演出の形式や、絵本の構造や読み聞かせ法について文献研究をおこなった。この研究は、演劇教育と音楽教育の両分野を架橋する取り組みである。互いの教育効果を高め合う新たな方法を生み出すことを目指したい。 また、本研究の成果をまとめた博士論文の出版化に向けて、編集作業を進めているが、今年度に発行までに至らなかったので来年度引き続き作業を進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、これまでの成果をまとめた博士論文をもとにした書籍が2020年度中に刊行される予定であるため、その執筆に力を注ぎたい。第二に、映像資料の整理と編集、公開の作業を進めたい。第三に、2019年度から親子の支援現場を対象に加えたため、新たな演劇的な手法の開発に向けてケーススタディを重ねたい。ただし、現状ではコロナ感染要望の観点から、ワークショップやステージを組むのは難しい可能性がある。それに代替する研究方法の変更について、今後検討していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していたフィールド先について、現地の状況により変更する必要があったことから、出張費などの使用予定額や時期に変更があった。その後、新たな研究対象に取り組み始めたことから、その研究に必要な書籍や物品、出張費等にその費用を充てる予定である。また、成果発表内容を充実させる目的で、新たに映像記録資料の作成や、インターネット上の使用も検討中であり、必要に応じて、その費用に充てる予定である。
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