本研究の目的は、第一に社会的課題を抱えた現場で応用演劇実践事例の調査を行い、外部者の役割について分析すること。第二に、国内の社会的課題を抱えた現場で実践を試み、「他者を演じる(外部者が当事者の代弁者となる)」機能と効果を明らかにすること。第三に、本手法を外部者と当事者が共に行うことで新たな視点を得、対話を促し、当事者がエンパワーメントされる過程を明らかにすることである。 目的を遂行するために、調査結果をもとに既存の応用演劇・演劇教育における方法論を乗りこえる新たな演劇的手法(他者の言動を写実的に再現する方法)を開発し、実践・評価した。その結果、この手法は他者に対して当てはめていた枠組みの存在に気づき、自分の見方を相対化することで、先入観に囚われずに相手を捉えるように変化する作用を持つことが明らかになった。このとき外部支援者である申請者およびこの手法を習得した学生が演じる機能を用いて仲立ちをしながら、調査対象地(高齢化団地)の当事者である住民と共にこの手法を実践することで、前述の作用は個々人のみならず住民相互におよび、その結果、コミュニティ内で課題とされていた人間関係も変化することが明らかになった。 本年度は第一に、コロナの影響で遅延してた新たな調査対象、すなわち親子、障がい者に向けた演劇的手法の調査と開発を一定程度遂行できた。主たる調査対象である親子に関しては、親子向けの演劇公演(主に参加型演劇公演)とワークショップの現状を調査し、プログラム内容の分析結果をもとに、親子向けの演劇ワークショップを開発し、13組の親子を対象に実施した。その内容は映像アーカイブとしてまとめた。また、開発過程の記録およびアンケート結果は現在評価中であり、今後研究成果として発表することを予定している。第二に、研究期間全体を通して得られた成果として、2冊の共著を出版した。
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