研究課題
相模湾(海洋生態系)および霞ケ浦(湖沼生態系)において,DNAを構成する4つのデオキシリボヌクレオシド(デオキシアデノシン,チミジン,デオキシグアノシン,デオキシシチジン)のバクテリア群集への取り込み特性を,申請者が新規に開発したヌクレオシド量を直接定量できる手法(Tsuchiya et al. 2015)を用いて調査した.相模湾および霞ケ浦のほとんどの測点において,デオキシグアノシンが最も高い取り込み速度を示した.このことは,他のデオキシリボヌクレオシドと比較して,細胞外デオキシグアノシンをDNA合成に使用できるバクテリア種が多いことを示唆しており,デオキシグアノシンを使用したバクテリア生産測定はより多くの種のバクテリア増殖を反映するものと考えられる.一方,デオキシシチジンは全ての測点において最も低い取り込み速度を示したことから,デオキシシチジンは他のデオキシリボヌクレオシドと比較して,細胞外に存在するデオキシシチジンをDNA合成に再利用する経路より,細胞内で新たに合成したデオキシシチジンをDNA合成に使用する経路の方が卓越していたことが示唆された.また,デオキシシチジンを添加した系においては,多くのサンプルでチミジンとして検出された.特に霞ケ浦においては,チミジンを添加した系と比較して,デオキシシチジンを添加した系でのチミジン取り込み量の方が多かった.湖沼生態系に優占するバクテリア種は,細胞外チミジンからDNA合成するための酵素を持つものが少ないと言われており,そのような種は細胞外デオキシシチジンをチミジンの代わりに再利用する経路が発達していたことが示唆された.本研究は海洋生態系および湖沼生態系におけるバクテリア群集レベルでのデオキシリボヌクレオシドの取り込み特性を明らかにし,バクテリア生産測定の正確性向上,水圏炭素循環の解明の一助となるものである.
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