本研究は、歯周組織再生医療の発展という観点から、細胞と成長因子の相互作用の解明による歯根膜付き歯科用インプラントの臨床応用を目的とする。歯根膜付きインプラントは再生医療の三要素(細胞・成長因子・足場)の相互作用の解明が困難なことから、開発が難航している。報告者は歯・インプラント・顎骨の界面に着目し、細胞と成長因子の相互作用の解明について多方向よりアプローチを行った。成長因子は細胞増殖分化を制御するTransforming growth factor(TGF)スーパーファミリーのTGF-βとBMPについて検討した。 歯と顎骨の界面である歯根膜の増殖分化制御は未だ不明な点が多い。成長因子に対し安定した反応性をもつヒト歯根膜細胞を株化し、ジルコニアおよび従来のインプラント材であるチタン上で株化歯根膜細胞を分化誘導し、反応性を比較することでインプラント歯根部としてのジルコニアの将来性を模索した。 歯科治療に用いるEr:YAGレーザーを生体へ低出力照射するLow reactive Level Therapyは創傷治癒を促進する臨床的に有効な治療法だが、基礎的知見には不明な点が多い。報告者はTGF-βに着目し、ヒト歯根膜細胞を用いてその影響について検討した。研究成果は第28回 日本レーザー歯学会学術大会において優秀発表賞を受賞した。 TGF-βは生体内での分布等不明な点が多いことから、生体内硬組織である歯のエナメル質におけるTGF-βの存在様式、活性化・不活化、維持のメカニズムをヒト歯根膜細胞との反応性から確認した。 TGF-βとBMPは細胞分化に影響を及ぼすことから、歯の形成過程においても関与が考えられる。ブタ歯髄細胞を株化し、成長因子と細胞分化の制御について検討した。研究成果は学術誌に投稿中である。 上記の結果より、本研究は今後の発展性を含め非常に有意義であるといえる。
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