研究課題
産業・製薬分野での応用がはじまっている酵素タンパク質は、その反応場に優れた触媒特異性を持つが、より一層の活用には使用目的に応じた反応場の制御が重要な課題である。本研究では、タンパク質の反応場が駆動する反応機構を量子論的シミュレーションにより解析し、反応場の構造と機能の相関関係を電子論的観点から原子レベルで解明する。さらに、生体分子以外のナノ物質の反応場も同アプローチで解析することで、タンパク質がつくる反応場とナノ物質の反応場の共通項と相違点を解明すると同時に、ナノ・バイオ物質群がつくるナノ反応場を統一的に理解するためのフレームワークを提唱することが、本研究の目的である。本年度は、タンパク質の反応場の例として、ウリジン-シチジンキナーゼを取り上げた。ウリジン-シチジンキナーゼは、ウリジンとシチジンのリン酸化を触媒し、核酸の分解によって生じた塩基などがヌクレオチド合成に再利用されるサルベージ経路において重要な酵素である。この酵素の反応場における基質特異性の研究を進めた。注目したのは好熱菌由来の酵素である。この酵素はウリジンに対する活性を持たず、その反応場にはチロシン残基が存在している。この反応場を分子シミュレーションの手法により解析した結果、当該チロシン残基を含めた3つのアミノ酸残基が基質に対して特異な水素結合を形成していることがわかった。この計算結果は、チロシン残基をヒスチジン残基やグルタミン残基に置換するとウリジン活性が出るという実験結果と良く整合することが明らかになった。さらに、ナイロン副生成物分解酵素も取り上げた。本酵素の反応場が持つアミド合成能は、反応場を構成するアミノ酸残基をいくつか置換することで大きく変化することがわかっている。この反応場の構造と機能の相関関係を分子シミュレーションの手法と実験手法により解明した。
3: やや遅れている
今年度予定していた計算機を導入してテスト計算を行なうところまで進んでいるが、計算機のセットアップやモデリングに多くの時間を費やしてしまった。
また、タンパク質とナノ物質が相互作用する反応場として、不凍タンパク質を取り上げる予定である。不凍タンパク質は氷の結晶成長を抑制するタンパク質である。その生物学的な意義は、寒冷地に棲息する多くの生物が不凍タンパク質を体内に持っていることによる。さらに、近年では冷凍食品の加工や保存への応用も始まっているため、産業面でも意義深い。本研究では、この不凍タンパク質と氷の表面との相互作用を、量子論的シミュレーションの手法により解析する。
物品購入時に端数が発生した。
次年度の消耗品の購入に充てる。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件)
Applied Physics Express
巻: 9 ページ: 064301
http://doi.org/10.7567/APEX.9.064301
FEBS Letters
巻: 590 ページ: 3133-3143
doi:10.1002/1873-3468.12354
Biophysics and Physicobiology
巻: 13 ページ: 77-84
doi: 10.2142/biophysico.13.0_77