研究実績の概要 |
本研究では、有機溶媒を一切使用しない無溶媒合成により、多孔質炭素の細孔内部にキノン誘導体を吸着させて複合化することで、電気化学キャパシタ電極の高容量化を検討した。本手法では電極材料の合成はわずか1段階であり、合成後の洗浄操作や精製操作も一切不要である。また、多孔質炭素への飽和吸着量以下であれば、正確に量り取ったキノン誘導体は多孔質炭素に完全に吸着されるため、多孔質炭素とキノン誘導体の重量比を精密に制御できる。したがって、キノン誘導体の多孔質炭素への導入量がキャパシタ特性にどのように影響するかを正確に議論できる。しかもキノン誘導体は多孔質炭素の細孔内部のみに吸着されるため、キノン誘導体の吸着による多孔質炭素粒子の膨張は一切起こらない。その結果、理論容量の高いキノン誘導体の多孔質炭素の導入によって体積当たりの容量を大幅に増加できる。本研究では、多孔質炭素に中空シェル状構造の多孔性カーボンブラックであるケッチェンブラック(KB、BET比表面積:1340 m2/g)を使用し、キノン誘導体に1,4-ジクロロベンゾキノン(DCBQ)を使用した結果、体積当たりのキャパシタンスを約5倍も増加させることができた。KBはミクロ孔容積(0.48 cm3/g)のみならずメソ孔容積(1.24 cm3/g)も大きいため、イオンの物理吸着によって充放電を行う電気二重層キャパシタ電極として使用すると、イオンの拡散抵抗が小さいために急速充放電が可能である。一方でDCBQを吸着させたKBは、DCBQの酸化還元反応による擬似容量の寄与が大きい。したがって従来の研究から得られた知見では、DCBQ由来の擬似容量は急速充放電には不向きであると予想される。しかし5 A/gという急速充放電領域においても、本研究で得られた材料はKBよりも急速充放電特性に優れる結果を得ることができた。
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