研究課題/領域番号 |
15K21480
|
研究機関 | 福山大学 |
研究代表者 |
宮崎 由樹 福山大学, 人間文化学部, 講師 (70600873)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | メタ注意 / メタ認知 / 注意 / ヒューマン・エラー / 見落とし / 視覚探索 / 共同探索 / 組織 |
研究実績の概要 |
“Two eyes see more than one”という諺が示すように,特定の標的を検出する際には,1人より他者と共同で探索した方が正確さや速さが増すことが知られている。共同探索は,日常社会でも活用され,産業現場,医療現場等では,複数人1組のチームによる同時ないし多重チェックが慣例化されている。しかしながら,複数のスタッフが同時にまたは繰り返し確認をしても,それをすり抜けて信じられない見落としが起こることがある。本課題の実施者は,チームの注意能力の過大評価が,このミスの一因と考えている。例えば,“1人のときにくらべて2人でチェックを行った方が正確に標的を見つけることができる”と思っていても,実際にそれができていなければ,物事の見落としの原因となるだろう。本研究の目的は,この“チーム全体の注意能力”に対する自己認識(およびその過信の大きさ)を評価することである。 2015年度の研究で,“1人で探索する場合の探索の速さと2人で探索する場合の探索の速さの差 (実測値)”,“1人で探索する場合に見込まれる探索の速さと2人で探索する場合に見込まれる探索の速さの差 (推測値)” を比較したところ,実測値にくらべて推測値を大きく見積もることが示された。言い換えると,1人で探索したときのパフォーマンスに比べた2人で探索したときのパフォーマンス向上の効果を過大評価することが示された。この傾向は,探索の正確さを指標としたときにも見られた。 2016年度は,2015年度の実験結果の再現と,その研究の結果明らかになった問題点を検証するために,2つの追加実験をおこなった。その結果,実験結果が再現され,現象のロバストさが示された。また,追加実験によって,視覚探索課題において"ターゲットがない"という情報に対して,観察者が極めて鈍感であることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
所属機関の変更に伴い,2016年度上旬は実験環境の構築と設定にやや手間取ることがあったが,おおむね申請書のスケジュールに沿って,研究および研究結果の発表を行うことができた。2016年度に実施したことは主に次の4点である。 (1) 前所属機関と同様の実験室環境および被験者予約システムを構築した。実験室にパーティションによって,2人1組で実験を行うための実験環境を構築した。また,研究を効率的に進めるために,カレンダー型のオンライン実験参加者募集システムを導入した。 (2) 2015年度の実験結果の再現と,その研究の結果明らかになった問題点を検証するために,2つの追加実験をおこなった。 (3) 2016年度に実施した研究結果を国内学会 (宮崎 由樹 (2016). 共同探索のパフォーマンスに対するメタ認知の正確さ 日本基礎心理学会第35回大会.) および国際学会 (Miyazaki, Y. (2016, November). How do we think collaboration affects visual search performance: Metacognitive accuracy in collaborative search process. 57th Annual Meeting of the Psychonomic Society, Boston.) で発表した。 (4) 上記(1)および(2)の成果をまとめた論文の一部を執筆した。
|
今後の研究の推進方策 |
2017年度は次の3つの課題に取り組む。 (1) 2015年度および2016年度実施した研究を論文にまとめ国際学術雑誌に投稿する。 (2) 2人で探索したときのパフォーマンス向上の効果を過大評価する現象を補正するための手法を確立する。具体的には,教示の効果やチームで視覚探索課題を繰り返すことの効果を検証する。 (3) 2015年度および2016年度は,視覚探索課題のみを実験課題として用いた。2016年度はさらに変化検出課題,高速逐次視覚呈示課題等の他の認知課題でも同様の結果が観測されるかどうか検証し,現象の文脈不変性に関して検証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額が異なった。
|
次年度使用額の使用計画 |
研究計画に変更はなく,前年度の研究費も含め,当初予定通りの計画を進めていく。 また,次年度使用額分を用いて,本年度の研究のスピードアップを図る。具体的には,週に数時間リサーチ・アシスタントを雇用し,実験関係書類の整理,その他雑務等を任せる。
|