“Two eyes see more than one”ということばが示すように,特定の標的を検出する際には,1人より他者と共同で探索した方が正確さや速さが増すことが知られている。共同探索は,日常社会でも活用され,産業現場,医療現場等では,複数人1組のチームによる同時ないし多重チェックが慣例化されている。しかしながら,複数のスタッフが同時にまたは繰り返し確認をしても,それをすり抜けて信じられない見落としが起こることがある。 本課題の実施者は,チームの注意能力の過大評価が,このミスの一因と考えている。例えば,“1人のときにくらべて2人でチェックを行った方が正確に標的を見つけることができる”と思っていても,実際にそれができていなければ,物事の見落としの原因となるだろう。本研究の目的は,この“チーム全体の注意能力”に対する自己認識(およびその過信の大きさ)を評価することである。 これまでの研究で,“1人で探索する場合の探索の速さと2人で探索する場合の探索の速さの差 (実測値)”,“1人で探索する場合に見込まれる探索の速さと2人で探索する場合に見込まれる探索の速さの差 (推測値)” を比較したところ,実測値にくらべて推測値を大きく見積もることが示された。言い換えると,1人で探索したときのパフォーマンスに比べた2人で探索したときのパフォーマンス向上の効果を過大評価することが示された。この傾向は,探索の正確さを指標としたときにも見られた。また,追加実験によって,この現象のロバストさが確認された他,視覚探索課題において"ターゲットがない"という情報に対して,観察者が極めて鈍感であることが明らかになった。 最終年度は,これらの実験結果をまとめて論文誌に投稿し,採択を目指した。
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