研究課題
シークエンス技術の向上により、ヒト疾患の原因となる遺伝子変異は、次々と明らかとなっているが、特にミスセンス変異の発症機序を配列データから推定することは困難である場合が多い。そこで、ミスセンス変異の分子機能及び表現型への影響を予測する手法の開発を目的として、本年度は、以下の研究を実施した。1)昨年度までに統合化した、ヒト疾患関連ミスセンス変異とタンパク質の構造・機能情報データベースを用いて、各ミスセンス変異がどのような表現型(疾患の種類)と関連するかを予測するための手法の開発に着手した。種々の機械学習アルゴリズムの中で、一般的に予測性能が高いと考えられる手法を用いて、ミスセンス変異について、優性変異、劣性変異、中立変異の3群に分類する予測器の構築を行ったところ、集団学習の手法を用いた場合に最も高い性能を持つことがわかった。上記の手法を用いて、転写因子STAT1の変異予測を行った。実験研究協力者によって網羅的な実験データと照合したところ、汎化性能はまだ十分であるとは言えず改良の余地が残された。2)昨年度明らかにした、異なる遺伝様式をとる疾患変異とタンパク質立体構造との関係について、さらに詳細な解析を行った。具体的には、常染色体優性型の遺伝様式をとる疾患について、発症メカニズムが類似する疾患変異ごとに分類し、各疾患グループの変異について、タンパク質の超分子複合体の立体構造に基づく詳細な解析を行った。その結果、変異による疾患発症メカニズムの違いとタンパク質複合体上の相互作用様式の間に明瞭な関係があることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
ミスセンス変異とタンパク質立体構造との関連性データから、ミスセンス変異の疾患表現型(疾患の種類)を分類する予測器の開発に着手し、ある程度精度のある予測器が得られた。また実験研究協力者の協力を得て、変異による分子機能の変化を示す実験データも得られ、予測性能評価にも着手することができており、今年度の計画に沿って進捗している。予測法の開発と並行して行った解析により、異なった疾患メカニズムを持つ変異は、タンパク質複合体構造上において特徴を有するという、想定外の結果を得ることもできた。以上のことから、当初の目的は概ね達成できており、順調に進展していると判断した。
ミスセンス変異の疾患関連性の有無及び優性・劣性を予測するための分類器を構築することはできたが、まだ精度が不十分であると判断された。特に、優性変異を分類する精度が、他の変異よりも劣るために、その予測精度を向上させるための改良を行う。そのために学習のパラメータの見直しを行う。同時に、昨年度に引き続き、実験研究協力者の協力を得て、実際の実験データと予測データとを照合しつつ、予測手法へのフィードバックを得ながら進める。また優性変異の詳細な解析によって得られたタンパク質立体構造における特徴を用いて、優性変異の分類を行う予測器の開発も行う。改良した予測法を、現在公開しているMutation@A Glanceウェブサイトに組み込み、サービスとして公開する予定である。
疾患変異のタンパク質立体構造解析結果を論文として発表するための費用として計上していたが、本年度中の採択に至らず、支払予定額と実支払額に差が生じた。
現在投稿中の論文の論文発表の費用として使用する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (4件) 備考 (1件)
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