研究実績の概要 |
最終年度である今年度は,これまでに蓄積されたデータを分析し,学術論文等として公表することに主軸を置いた。今年度の主たる成果をまとめると下記の2点に集約できる。 1.音楽演奏を鑑賞する際の時々刻々の印象をAffect Grid(Russell, 1989)上で回答する自作アプリ(Android端末上で動作)を構築した。この時々刻々の印象評定が,演奏者が目の前で演奏する「生演奏条件」とスピーカーから演奏を聴取する「録音聴取条件」でどのように異なるのかを調べた。その結果,生演奏を「聴取中」の印象は録音聴取に比べて,むしろ抑えられたものになることが示された。その一方で,演奏を「聴取後」の印象は,生演奏条件の方が強いことがわかった。これらの結果は,音楽鑑賞中の時々刻々の印象の変化が,音楽鑑賞後に感じられる印象と必ずしも対応したものではないことを示している。 2.研究代表者の過去の研究(Shoda, Adachi, & Umeda, 2016)では,クラシックのピアノ演奏を鑑賞中の鑑賞者のストレス・覚醒度(心拍変動成分のうちの交感神経活動)は,生演奏の方が録音聴取よりも低いことが示されている。こうした生理的な効果が,大学生が普段聴取しているポップス音楽にも同様に認められるのかを調べた。大学生がポップスコンサートに向かう際に,小型の心拍センサーをつけてもらい,生演奏鑑賞中の心拍変動および生理的複雑性を分析した。また,生演奏で用いられた楽曲と同じ曲をスピーカーから聴取してもらう実験も行った。その結果,「ポジティブ・覚醒度の高い曲で心拍時系列の複雑性が下がり,ネガティブ・鎮静度の高い曲で上がる」という関係は生演奏を鑑賞しているときのみに認められることが示された。
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