研究課題/領域番号 |
15K21493
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
鈴木 絢女 同志社大学, 法学部, 准教授 (60610227)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 国家財政 / 開発志向国家 / 権威主義体制 / マレーシア |
研究実績の概要 |
29年度は、政権や政治家個人の政治的権力の持続の資源としての国家財政に焦点を当てる2本の単著論文を執筆した。
「政治の自由化とリーダーの生存: 2015年線同胞修正法案を中心とした法制度改革の分析」(中村正志ほか編『ポストマハティール期のマレーシア』アジア経済研究所、2018年)では、選挙資金の獲得を目的として設立し、大規模な国家財政を投入した国営投資会社にまつわる不正資金流用疑惑を契機に、与党内外からの自身の権力に対する挑戦をうけた首相が、個人の自由を制限する法律の改正によって、自身の権力の生存を図る過程を記述したものである。2010年以降の国営投資会社の動向、当該会社のための財政支出、と2015年から2016年にかけての一連の法改正は、政府の自律性を骨格とする開発志向国家から完全に逸脱したことを示している。「一党優位体制の資源としてのサラワク」(『マレーシア研究』、2017年)では、与党の長期政権を支える農村部を多く抱えるサラワク州に焦点を当て、州政府への補助金支出、週内の個別選挙区への支出、州内の低所得者に対する公的扶助の分配状況を明らかにした。この結果、サラワク州への1人あたり開発予算の分配が、首都に近接したスランゴール州をのぞくほとんどの州を上回っていること、また、インフラ投資向けの財政支出が増加傾向にあることが明らかになり、政権維持のための国家財政分配が行われていることが明確になった。
また、マレーシアで公文書公開を進めるNGO(Sinar Project)の代表Khairul Yusuf氏とともに、昨年度電子化した予算文書をホームページにアップロードし、学術振興会への謝辞も掲載した。https://govdocs.sinarproject.org/about/about-malaysian-government-documents-archive
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
29年度は、2月後半から3月末にかけて、首相府に割り当てられている選挙区別の特別プロジェクト予算(Projek Khas)の実態を明らかにするために、選挙区レベルでの聞き取りを行う予定だった。
しかし、健康上の理由から、予定していたフィールドワークを実施することができなかった。そのため、29年度に申請していた旅費は次年度に繰り越しとなる。
特別予算プロジェクトに関する現地調査はできなかったものの、マクロ・レベルでの国家財政と政権、国家財政と政府の自律性に関する分析を進めることができた。そのため、進展状況は、「やや」遅れていると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
30年度は、引き続きマクロ・レベルでの国家財政と政権維持、国家財政と政府の自律性の関係についての分析を進め、開発志向国家理論に対するフィードバックを目指す。そのために、現在までに相当研究が進んでいるアジア経済危機以後の財政だけでなく、経済の自由化と輸出志向型工業化に舵を切った1980年代前半以降の財政分析を進める。これにより、開発志向国家の成功例とされていたマレーシアの国家財政が、もっぱら政権維持という目的に資するものに変容し、その結果として財政赤字が拡大し、汚職の温床となっていく過程を描く。
また、28年度に『国際政治学』に公刊したアジア経済危機以降のマレーシアの国家財政の変遷と開発志向国家からみたその意義に関する論文を英訳し、Pacific Review誌などに投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2月なかばから3月にかけて、マレーシアでの現地調査を予定していたが、健康上の理由から、現地調査を中止せざるを得なかった。
そのため、当該調査に割り当てていた旅費を、次年度に使用する。
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