研究課題/領域番号 |
15K21495
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研究機関 | 金城学院大学 |
研究代表者 |
舩田 淳一 金城学院大学, 文学部, 准教授 (90571951)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 中世の一切経会 / 中世の春日信仰 / 中世の白毫寺 / 中世の葬送儀礼 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、前年度の「推進方策」に示したように、一切経会そのものの研究に着手し、まず龍谷大学図書館の島田文庫に蔵される『一切経書写供養転読史』『一切経の外形的研究』『一切経供養史料』を調査した。判読の困難な箇所もあるが、一切経研究史における極めて重要な文献であって、中世の一切経会研究にも大いに資するものであることが実際に確認された。 続いて上野音楽大学日本音楽史研究所蔵『春日一切経転読作法』と『住吉太神宮一切経会当日式』の調査を行った。住吉社のものは近世資料であり、また儀礼に伴う歌舞音曲の次第のごく簡略な記録に留まるが、春日社のものは弘安五年の本奥書を有し、隣接する白毫寺の一切経会への直接的な影響関係も想定可能である。残念ながら一切経会の全体的な次第書ではなく、春日社一切経会において「真言経衆」が一切経会に用いる経典を加持する際の次第書であるため、即座に儀礼の全体像を復元し得るものではない。よって「転読衆」の用いた次第書の発見が期されるが、春日社一切経会に関する儀礼次第書としては現状で確認される限り唯一の貴重な資料である。 『春日一切経転読作法』については、仏教史学会大会報告の中で紹介し、興福寺は顕教が主体とされるが、奈良の密教僧も結番して儀礼に勤仕しており、顕密合行の法楽であって、中世神仏習合儀礼の実態を考察する上で興味深い事例との位置づけを与えた。 また墓寺である白毫寺では死者供養のために、春日神を勧請して一切経会が修される。故に神祇と死穢の問題は不可避であり、白毫寺における死穢を忌避しない春日の神観念が窺える。そのような春日神による救済は中世都市奈良の精神世界の解明のポイントであるため、日本宗教民俗学会大会において本研究とも密接に関わる報告を行い、中世宗教と穢れをめぐる議論を深めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に引き続き、平成28年度も新資料の調査を実行し、学会でも報告を行っている。また単に新史料の紹介・分析する形での学会報告や論文だけでなく、本研究の方法論的な射程を拡げることも試みた。例えば、論文「〈法華経儀礼〉の世界」(『アジア遊学』207号、2016年10月)では、深く経典に関わる儀礼について立論した。法華経を対象とした論議法会や講説法会であるが、特に儀礼空間への神祇の勧請の問題に注目したものであり、春日神を勧請して修する白毫寺の一切経会を考える際に有効である。なお白毫寺では法華千部経会も修されており、これについては前年度、既に関連資料を紹介している。 また中世史研究会例会報告(2016年6月)では、一切経会が始行され恒例化してゆく鎌倉後期~南北朝初期の白毫寺の実態研究を進展させる意味で、白毫寺での修学経験を有する当該期の律僧である清算の思想と宗教活動についての報告を行った。そして「研究実績の概要」でも記したように、白毫寺一切経会においてポイントとなる神祇信仰と穢れの関係についても、方法論的な議論を行っている。このように資料面と方法面の双方から、研究を展開させることができた。よって全体として本研究は当初の計画に沿って進捗しているものと判断される。
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今後の研究の推進方策 |
ここまでの二年間は中世白毫寺の宗教活動の実態解明と、同寺の一切経会を歴史的に位置づけるための中世一切経会や儀礼の研究を進めてきた。最終年度は、中世神仏習合状況における春日信仰(仏教的春日信仰)の諸相の分析へと研究を展開させてゆく。春日社一切経会には密教僧が参仕しており、また白毫寺は密教の要素も濃厚であることから、特に中世真言密教世界における春日信仰の問題に集中する。 興福寺僧の春日信仰については、『春日権現験記絵』など説話を中心に研究が進展しているが、密教的な春日信仰については研究が殆どなされていないと思われるため、「中世における仏教的春日信仰の展開をめぐる研究」と題した本研究にとって、これは重要な課題である。その際、春日神を本尊として供養する「春日本地供」といった密教儀礼が注目されてくるが、幾つかの寺院聖教の中にこれに関する未紹介資料が伝来することが予測されるため、調査を行う。この他にも調査・研究すべきものが残されているので、それらを回収しつつ、最終年度は全体としての本研究の完成を目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた寺院調査が先方の都合で一回分、キャンセルとなりその費用が未使用として残ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度に、改めて調査を行うことで使用する。
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