研究課題/領域番号 |
15K21496
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
由井 秀樹 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (40734984)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 不妊 / 男性 / 生殖 / セクシュアリティ |
研究実績の概要 |
従来のジェンダー研究では、セクシュアリティと生殖をめぐる問題は、女性の問題として捉えられてきており、この問題が男性との関連ではほとんど議論されてこなかった。男性と生殖の問題が顕在化する男性不妊をめぐる今日の非医療専門家向けの言説が検証されたとしても、そこで明らかにされたのは極表面的な現象に過ぎなかった。本研究は、戦後日本において、男性不妊が非医療専門家向けの言説においてどのように語られてきたか検証することを通し、男性と生殖をめぐる今日の認識が、いかにして構築されてきたか明らかにすることを目的にする。 平成27年度は、落合恵美子のいう「家族の戦後体制」が継続した1975年までを目処に、非医療専門家向け言説において、男性と生殖をめぐる問題がどのように語られてきたのか、検討した。その際、女性誌、男性誌などを広く渉猟しながら、『読売新聞』に掲載される身の上相談「人生案内」を主たる分析資料とした。その結果、今日でもしばしば不妊原因が男性にも存在することは「意外な事実」と語られるが、医師による不妊の解説記事においては、当時から男性不妊の存在も語られていた。つまり、「男性不妊」という概念は非医療専門家向け言説のなかにも確実に存在していたのだが、それにも関わらず、「不妊男性」の姿は滅多に表れなかった。しかし、「不妊男性」を夫に持つ妻、「不妊女性」を妻に持つ夫や、それらの相談に回答する身上相談記事、はしばしばみられた。それらを分析した結果、女性本人にとっても、男性不妊が女性自らの問題として認識されていること、妊娠・出産・子育ては家族をめぐる規範から要請されるものというよりも、男女双方にとって自己実現の手段として認識される傾向があったこと、身上相談の回答(規範的作用をもつ言説)として、夫婦の愛情が子どもの有無よりも優先されるべき、と語られていたこと、などが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
女性誌や男性誌など、広く非医療専門家向けの雑誌を渉猟していたが、不妊男性をめぐる語りがほとんど得られず、研究計画に微修正が要請されたため。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究成果は、平成28年9月の日本家族社会学会において報告し、そこでの議論を組み込んで論文を完成させ、同学会の『家族社会学研究』に投稿する。 今年度の研究では、1976年から2000年代までの展開を扱う。主な分析資料には、平成27年度に引き続き、広く非医療専門家向け雑誌を渉猟しながら、『読売新聞』の「人生案内」を用いる。特に、世界初の体外受精児が誕生した1978年、日本初の体外受精児が誕生した1983年以降、不妊に関する言説の量が増大し、1990年代以降は不妊が少子化対策との関連で語られるようになるのだが、そこに男性不妊や不妊男性がどのように語られてきたか分析する。特に、少子化対策をめぐる言説との関係で、各種政策文書も分析対象に加える。その成果は、2016年11月にマンチェスター大学で開催されるシンポジウム(UK-Japan Seminar on the Politics and Practices of ‘Low-Fertility and Ageing Population’ in Post-War Japan)において発表し、英語論文をJapanese Journal of Family Sociology(『家族社会学研究』)に投稿する。 合わせて、2017年2月を目処に若手の社会学、ジェンダー研究者を招聘する公開研究会(「男性と生殖、セクシャリティをめぐる諸問題」)を開催し、平成27年度の研究成果も含めて報告を行う。公開研究会の記録は、報告書として刊行を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
主たる調査場所として国立国会図書館を想定していたが、研究計画の微修正に伴い、所属機関の所蔵資料及び所属機関で使用できるデータベースにより研究の遂行がある程度可能になったため。
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次年度使用額の使用計画 |
戦後の家族思想に大きな影響を与えた川島武宜の著作集(岩波書店、2002年)を購入する。
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