研究課題/領域番号 |
15K21500
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
冨田 敬大 立命館大学, 立命館グローバル・イノベーション研究機構, 研究員 (80609157)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | モンゴル / 牧畜社会 / 近代化 / 環境利用 / 集団化と脱集団化 |
研究実績の概要 |
本研究は、モンゴル国における人間=環境関係を、20世紀の社会経済変動(農牧業の集団化と脱集団化、都市・工業化、鉱山資源開発等)と環境変化との関連に着目して明らかにすることを目的とする。 20世紀の社会経済変動と環境変化との関連をめぐって、平成28年度は、これまでに収集した文書資料とフィールドデータの整理・分析を通じて、以下の三点について検討を行なった。第一に、首都と新興都市の周辺地域における牧畜の定着化の実態とその歴史的過程を、調査地であるモンゴル北部・ボルガン県オルホン郡の事例をもとに詳細に跡づけた。社会主義時代、特に1950年代後半の農牧業集団化により、全国で一郡一組合の体制が確立したことで、基本的には郡や行政区の範囲で季節移動が行なわれるようになった。民主化後は、集団化期の土地利用・管理の枠組みに依拠しながらも、それらを支えてきた公的な支援(輸送・流通サービス、畜舎や井戸の設置、牧草・飼料供給など)がなくなったことで、都市周辺を中心に牧民の移動性が低下しており、その結果、環境変動による影響を受けやすくなるなど、放牧地をめぐる様ざまな問題が生じていることが分かった。 第二に、社会主義下(特に集団化期)の近代化過程において、家畜飼育と土地利用の関係がどのように変化してきたのかを、集団化以降の牧畜に関する諸法令及び人びとの語りをつき合わせて検討した。その結果、1950年代後半の牧畜協同組合の設立とともに導入された、郡および行政区を単位とした集約的な土地利用システムが、地方の自然環境に悪影響を及ぼすようになるなかで、家畜増産という経済性を追求するものから、自然環境の保全・管理に配慮した仕組みを新たにつくり出す必要が生じたことが明らかとなった。 第三に、畜産物の生産、消費、流通がどのように変化してきたのかを、乳・乳製品の域外販売と域内消費の関係に着目して検討を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、これまでに収集した文書資料とフィールドデータの整理・分析を中心に行うことで、特に首都と新興都市の周辺地域における牧畜の定着化の実態と歴史的過程を明らかにし、その成果を、原著論文・図書等として積極的に発信した。 一方で、当初予定していた農牧業の集団化と脱集団化が、地方の社会・経済構造に及ぼした影響を明らかにする作業には遅れが生じている。それは、民主化・市場経済化以降、市場(都市や国境等)からの距離が、牧民の社会経済活動に及ぼす影響が大きくなっていることを受けて、首都及び新興都市の周辺地域の事例(ボルガン県オルホン郡、セレンゲ郡)を相対化するために、新たに遠隔地の事例(テシグ郡)を加え、調査を実施したためである。これら三地域における『家畜資産台帳』等の本格的な分析は次年度にとりおこなう予定である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる次年度は、前年度までの補充調査・分析を実施するともに、研究成果のとりまとめを行なう。とくに本年度十分に検討できなかった、農牧業の集団化及び脱集団化が地方の社会経済構造に及ぼした影響を、ボルガン県オルホン郡、セレンゲ郡、テシグ郡の『家畜資産台帳』等の分析を通じて明らかにする。その上で、これまでに仮説的に構成した近代化以前の牧畜の論理にもとづく物質循環のモデルが、20世紀の社会経済変動と環境変化のもとでどのように変化(あるいは崩壊)してきたのかを理論的に定式化させ、モンゴルの人間=環境関係に関する民族誌を完成させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
勤務先の職務の都合により現地滞在期間を短縮し、当初計画よりも旅費が低く抑えられた。
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次年度使用額の使用計画 |
新たに調査事例として加えたボルガン県テシグ郡の『家畜資産台帳』等の関連資料の閲覧・複写費用及び分析機器の購入必要に充てる予定である。
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