本研究は、モンゴル国における人間=環境関係を、20世紀の社会経済変動(農牧業の集団化、都市・工業化、鉱山資源開発等)と環境変化との関連に着目して明らかにすることを目的とする。 平成29年度は、ボルガン県において前年度までの補充調査を実施するとともに、国家統計局や地方の行政機関が管理するローカルな統計データ(『家畜資産台帳』など)と、フィールドデータを組み合わせた分析を行った。調査研究の成果として、以下の三点を明らかにすることができた。第一に、都市近郊にある調査地では、遠隔地からの人口流入による影響が確かに大きいものの局所的であり、むしろ様々な要因が複雑に関与することによって、人口・家畜頭数の変動が生じている。第二に、いずれの地域でも、牧民たちが自らの所有する家畜頭数を減らさないように自家消費および売却を行っているという共通した特徴が見出された。ただしこれは、移行当初の売却可能な市場がありながら、食料として家畜を自給的に消費していた状況とは明らかに異なる。第三に、同じ都市近郊といえども、畜産物とりわけ乳製品の利用にはかなりの地域差がみられた。乳製品の「商品化」に地域差をもたらした要因として、市場からの距離とともに、各世帯が所有する家畜群の規模や構成ならびにそれらを基礎づける土地や労働力の多寡が関与していた。 最終年度にあたるため、三年間の研究成果をとりまとめる作業にも専念した。出版物に関しては、査読付き論文2本および図書1冊、ニューズレター1本を公刊した。また、生態人類学会や国立民族学博物館、明治大学などで発表を行った。こうした一連の研究を通じて、都市・工業化に伴う人口動態(人口増加、都市部への人口集中および地方の過疎化)、農畜産物の商品化・市場化、資源利用・管理システムの変容が、モンゴル草原の土地・家畜・人の相互関係に大きな影響を及ぼしてきたことを明らかにすることができた。
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