研究課題/領域番号 |
15K21501
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
松葉 涼子 立命館大学, 衣笠総合研究機構, プロジェクト研究員 (90555591)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 葛飾北斎 / 江戸 / 版本 / 出版文化 / 浮世絵 / 大英博物館 |
研究実績の概要 |
本プロジェクトは大英博物館の北斎の晩年プロジェクトと共同ですすめており、本年度4月には米国フィリアーアンドサックラー美術館での北斎肉筆画調査と旧プルヴェラー蔵およびフィリアー蔵書の北斎版本の調査を実施した。調査のうち、20世紀はじめに北斎作品をフィリアーに売却した小林文七のアーカイブスが美術館にあることが分かった。小林文七は北斎作品の複製をてがけており、複製制作にかかわることがアーカイブスに記述されているかどうかが期待される。版本については、両コレクションともにすでにデジタル・アーカイブ化されており、本研究プロジェクトですすめているカタログレゾネとも相互リンクによって情報を共有化させることを図書館スタッフおよび学芸員と相談している。 また、立命館大学、学習院大学と大英博物館で定期的に実施している北斎版本の序文および『絵本彩色通』の講読については、1823年から1837年出版までの北斎序文の注釈、現代語訳および英訳をすすめることができた。また『絵本彩色通』については初編の7丁オモテまでを講読をすすめた。2019年度は以上の蓄積をWEBで閲覧、検索できるシステムを立命館大学アートリサーチセンターと協力してすすめていきたい。また、以上の研究結果については2019年2月25日に学習院大学でまとめのワークショプを実施し、これまでの業績と今後の課題について整理した。 これまでにすすめている網羅的な調査報告および文章の講読によって特に北斎の1830年代の制作活動が研究の焦点となってきている。意欲的な『富嶽三十六景』シリーズの刊行以降、1835年ごろには北斎は一枚摺の制作をストップしており、また版本についても特に1830年代後半のものについては出版が遅れているなど不可解なことが多い。以上の問題提起および現在までの研究結果を2019年に大英博物館出版の書籍における論文にまとめ出版する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大英博物館、立命館大学アートリサーチセンターおよび学習院大学の協力によって特に北斎の晩年に出版された版本の講読が飛躍的にすすんだ。特に最晩年北斎最後の作品である『絵本彩色通』の内容については、深く読み進めるために他の画法書の整理をすすめることが必要であり、特にJosiah Conder 著 Paintings and Studies by Kawanabe Kyosai (Tokyo: Maruzen Kabushiki Kaisha, 1911年) の、Glossary部分や、市川守静編『丹精指南』(東京美術学校々友会, 1926年)における絵の具および絵画技法の用語整理を同時にすすめた。また、エリス・ティニオス氏の協力によって北斎版本制作にかかわっていた版元西村屋与八、永楽屋東四郎、小林新兵衛についての調査をすすめている。特に永楽屋については天保後期より江戸の版元が所有していた版木を買い取り多くの版本を再版していることは、北斎版本についても例外ではなく、今後他の出版事例も含めて再版の経緯については入念に調査、整理される必要がある。今年度までに天保期の永楽屋の蔵版目録についてリスト化をすすめ、出版の状況について整理している。 また、1823年に西村屋から出版された『今様櫛キン雛形』は1880年代に京都、大阪にて図様を敷き写しにしたものが版行されている。北斎版本の図様の流用を考える上で興味深い事例であり、明治期の北斎デザイン人気を裏付けるものとして位置づけられる。 小林新兵衛については明治期に天保期の版木を使って出版された版本が国内外に何点か所蔵されており、また出版当時の蔵版目録が残されていることによって、北斎の死後幾年かたった後で北斎版本が出版される理由についてが明確になってきている。明治期の北斎版本の受容と広がりについてはあらためて論考としてまとめる必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに、北斎版本についてのカタログレゾネをデータベースとして作成し、公開をすすめた。一方で出版の背景を考えるための諸資料の調査を実施した。これまでの課題である近世期の版元一覧をデータベースとして整理し、公開すること。また版元と版本のデータを結びつけることで出版の諸相を版元ごとにデータベース上で視覚化できるようにすることが引き続き課題として残っている。また、エディションの前後関係についてもデータベース上でならべて表示できるようにしたい。 また、立命館大学アートリサーチセンターでは、既存の版本データベースにイメージマッチングシステムを導入することを検討しており、前述したように北斎デザインが他の版本で流用されているような事例を発見できるようになることが期待される。 また、2016年より立命館大学、学習院大学、大英博物館と共同して北斎版本の序文、書簡、『絵本彩色通』の内容についての講読と英訳とをすすめてきている。すでにアートリサーチセンターとは語釈、現代語訳、英訳をならべて表示できるようなシステムについてのアイデアについては話し合いを行ってきた。また、画法書のような関連する書籍についてもすぐに語彙検索できるようになること、また研究会が進むにつれて必要語彙を蓄積していけるようなシステムの内容についても検討されている。しかしながら、版本の基礎情報および画像を公開する版本データベースとの連携については未だ実現していない。 今年度はこれまでの研究成果をweb上で公開するシステムを開発すること、またそれらの情報が版本のカタログレゾネと有機的に結びつくような方法を考案し、今年度中に実際に運用していくまですすめたい。 以上のシステム開発にあたって、アートリサーチセンターのテクニカルサポートチームと密に相談し、実際の運用まですすめられるような研究計画がたてられるように相談をすすめている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は特に研究成果の蓄積と編著の出版についてすすめたため、システム準備のために予定していた人権費や国内出張費を抑え、最終年度である次年度にむけて研究成果のシステム開発を集中的にすすめるために各費用を繰り越して用いることとしたい。2019年度については、システム準備のための物品費およびデータ整理のための人件費の二つに余剰金額を振り分けて、成果の公開を飛躍的にすすめていきたい。
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