本課題は、イギリスのAHRCの研究助成による大英博物館およびロンドン大学SOASが北斎の晩年研究プロジェクトとの共同で2016-2018年度まで共同研究をすすめ、最終年度となる本年は成果報告として、大英博物館マンガ展への協力とカタログ執筆、および大英博物館から2021年度に出版される北斎の晩年のプロジェクト論文集への論文執筆にむけての情報収集と中間成果報告を中心に研究をすすめた。 特にマンガ展のカタログでは、北斎の絵手本『北斎漫画』に関連して近世文化史の視点からみた「漫画」の意味と現代マンガ文化につながる視覚的な物語表現について論じた。マンガ展への協力にあわせて、近世から近代の出版文化の変容について注目し、19世紀以降の木版画出版流通の衰退と子供向けの銅版絵本の出版への推移またその過程の中で子供むけ絵物語としてのポンチ絵本の出版が、次の時代の赤本マンガにつながることを明らかにしている。 以上の研究成果から、特に19世紀後半から20世紀はじめにかけての北斎の複製版画の流通と版本の再出版について注目するようになった。エリス・ティニオス氏がイギリスの学術雑誌『プリント・クォータリー』誌において今まで注目されてこなかった北斎版本として、北斎の死後、1880年になって新たに出版された『画本唐詩選五言絶句』の出版背景を詳しく論じた。あわせてイギリスの個人コレクションとして最近所収された二点を紹介している。その日本語訳をし、日本語での論文発表に協力した。氏の研究実績は特に近世後半の北斎版本の背景に関する理解を深めるものであり、本課題とも深く連動している。 さらに、本研究では特に19世紀後半から出版される北斎の複製版画と江戸から明治にかけての近世的な出版形態の解体との関係性に注目し、米国スミソニアン機構フィリアー・アンド・サックラー美術館、およびボストン美術館での調査、研究を実施した。
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