研究課題/領域番号 |
15K21502
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
清水 聡行 立命館大学, 立命館グローバル・イノベーション研究機構, 研究員 (50584025)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 人口減少 / 水道料金 / 水道事業経営 |
研究実績の概要 |
今後、長期にわたり人口減少が想定される中、持続的な水道事業経営を実現することが課題となっている。本研究の目的は、1.人口減少が水道事業経営へ与える影響を定量的・定性的に把握し、2.水道事業計画を策定する際の住民との合意形成方法に関する検討を行うことである。平成28年度は前年に引き続き、人口減少の始まった水道事業体の実態整理を行った。具体的には統計資料を用いて、人口減少が進む水道事業体で一体何が起こっているのか、定量・定性的な視点から把握を試みた。平成14年度から24年度にかけての人口変化と水道経営に関わる指標との関係を分析した。平成24年度における水道事業体の人口規模を「2万人未満」、「2~10万人」、「10万人以上」に分類し分析を行った。「2万人未満」の小規模事業体では、他の給水人口規模よりも総じて変化のばらつきが大きいことがわかる。有収水量変化率は、給水人口変化率と高い正の相関関係が見られた。水道料金変化率は、小規模で給水人口が減少している事業体で、料金上昇率が大きくなっているケースが見られた。収益的収支の繰入金比率が増加している事業体の多くは、小規模で人口減少が進んでいる事業体であった。管路耐震化率や管路更新率については明確な傾向が見られなかった。水道料金変化率と料金回収率および管路更新率の変化量との関係を示したものである。小規模事業体では水道料金を値上げしても改善していないケースも見られた。また、水道料金が上がっても管路更新率は上昇していないケースが多かった。料金回収率変化量を目的変数とした重回帰分析を行った結果、収益的収支の繰入金比率変化量の影響度が比較的大きいものと考えられた。また、有収率や施設利用率の向上も重要な要因である。一方で、管路密度や人口一人当たり有収水量といった事業体の特徴を示す指標からの影響は見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度は、平成27年度に引き続き、給水人口の減少が進む水道事業がおかれている状況を定性的・定量的に把握するための情報収集および情報整理を中心に研究を進めた。人口減少が始まっている水道事業体の抽出し、対象事業体とするプロセスや事業経営に関する指標の選定に多くの時間を要したこと、市町村合併を行っていない水道事業体を抽出した結果、サンプル数が想定よりも少なくなったことから予定よりも研究の進捗が遅れている。また、水道事業体も様々であり、統計データにかなりのばらつきがあったことも研究が遅れている要因である。また、平成24年度の水道統計を用いて水道事業の持続可能性を水道料金について着目して分析を行った。ここでは、人口密度に着目し「人口密度が高い事業体」と「人口密度が低い事業体」に分類し分析を行った。平成24年度水道統計の掲載されている水道事業体の内、地方公営企業法が適用されている1344水道事業体を対象に、人口密度が高い上位25%と人口密度が高い下位25%の事業体を抽出し、比較分析を行った。分析結果、「人口密度が高い事業体」では、効率性や収益性が高い事業体であることがわかった。安定的な財政確保を検討する指標として「料金回収率」、安全性確保のための先行投資を検討する指標として「管路更新率」を用い、各水道事業体の水道料金を目的変数に主成分回帰分析を行い、水道料金に着目した水道事業の持続可能性を評価した。 特に統計データを用いたマクロ的な視点からの分析では、おおよそ想定された結果や明瞭な傾向が見出せない結果しか得ることができなかった。このことは、マクロ的な視点から分析する手法の限界ともいえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、人口減少が進んでいる地域を対象として一般住民へのWEBアンケート調査を行い、水道事業の現状に関する認識や今後の水道事業経営や水道事業計画策定に関する意識を把握する。このアンケート調査は平成28年度に実施することを予定していたが、アンケート項目や対象地域の選定に時間を要しているが、遅くとも9月には実施したいと考えている。住民への意識調査は、WEBアンケート調査を用いて人口減少が進む自治体の住民に対して水道施設整備や水道料金に関する意識を把握する。なお、人口減少だけでなく我が国おいては高齢化の急速な上昇も課題となっている。そのため、幅広い世代に対して調査を行い、高齢化の影響も分析する。また、世代によって水道に対する意識や水の使い方等も異なってことも想定されるため、そのような設問も設定する予定である。なお、特に中小の水道事業体において今後、水道事業持続させていくためには、住民との協働が重要となってくると考えられる。協働には計画策定への参画や維持管理の補助など様々なレベルが考えられるが、本研究では計画策定に係る項目を中心に意識調査を行う。また、その際のコミュニケーションの取り方や課題等についても把握する。また、水道事業体へのヒアリング調査等を行い、人口減少や高齢化に対する対応策や課題についても把握する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度においては、予定していたWEBアンケート調査を次年度に実施することとしたため、研究費を大きく繰り越すことになった。なお、消耗品の購入額が予定より少なかったことや出張回数が予定より少なかったことも繰り越しする金額が多くなった要因である。また、学内の関連研究予算にて出張旅費等の本研究に係る費用の一部を執行したことも繰り越しが生じた理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越しも生じたため、実施予定であるWEBアンケート調査の規模を当初の予定より大きくするとともに設問数も多くする予定である。また、水道事業体の置かれている状況は様々であることからも実情を把握するためには人口減少の著しい事業体へヒアリング調査を行うことが重要である。より詳しく動向を把握するため事業体を含めたワークショップ等の研究会を実施したいと考えている。 平成28年度の成果を公表するとともに、研究をより発展させるためにも、学会発表や論文発表を行う予定である。次年度以降、上記のアンケート調査やヒアリング調査、論文発表や学会発表に伴う旅費等を中心に研究費を使用する予定である。
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