本研究は、仕事と家庭の両立が女性の健康に与える影響を国際比較の観点から検討することを目的とした。パネル調査を含む先行研究では、無配偶者にくらべて有配偶者のほうが健康状態が良好であることが示されてきた。しかしながら、結婚が健康に与える影響には男女差があるとする議論もある。女性は妻・母・労働者としての役割葛藤が男性より大きい傾向があり、就労と家庭の両立は必ずしも女性にとって有益でない可能性が指摘されている。本研究では、日本おける日本人女性と米国における日系人女性の健康度を比較することで、女性に期待される社会的役割の違いが、どのように女性の健康に影響を及ぼすかを考察した。 今年度は、米国に在住する日系人への健康調査と、日本在住の日本人女性への健康調査の比較分析を行った。米国日系人女性662名および日本人女性1243名を分析した結果、以下の知見が得られた。つまり、日系人女性および日本人女性ともに、未婚者よりも既婚者において主観的健康度が高く、その関連は年齢や収入、学歴、などの社会経済的要因や喫煙、BMIなどの行動要因を考慮しても残ることが分かった。さらに、両グループともに、年齢と喫煙は主観的健康と負の関連があるのに対し、学歴・世帯収入は日系人女性においてのみ正の関連があることが分かった。また、日本人女性においては就労時間と主観的健康のあいだに関連があるのに対し、日系人女性においては両者に関連がないことも分かった。今年度はさらに、比較分析の結果と理論考察をもとに英文書籍のプロポーザルを執筆した。
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