研究課題
本研究は,身体の生理活動がリアルタイムで我々の認知に与える影響を明らかにするために,息を吸う・吐くという呼吸の位相と,心拍の拡張期・収縮期の位相がが,自己・他者の感情の認識や印象に与える影響を検証するものである.本研究は,(1)呼吸と心拍との位相が自他の感情強度の知覚に及ぼす影響,(2)対象の好悪の印象形成に及ぼす影響,および(3)上記の2点に共通する心身相関の個人差要因,の3つの項目を検討する.H28年度は,研究項目(1)に関して,呼吸の位相の影響を検討する複数の実験を行った.主な実験では,成人男女を対象として,6種の感情表情および1種の中性表情画像の感情強度評定課題を実施した.その結果,刺激の瞬間提示時の実験参加者の呼吸位相(呼気時か吸気時か)によって,知覚する感情強度が異なる可能性示唆された.さらに,性別によって,呼吸位相が影響を及ぼしやすい感情価が異なる可能性が示唆された.また別の実験では,呼吸位相の影響をより精緻に検討するために,視覚提示された顔表情の感情価の判断を行う単純反応時間課題を実施した.ここでは刺激提示のタイミングの呼吸位相が5つに区分された(吸気前期/後期/呼気前期/後期/呼気後ポーズ).成人女性を対象とした検討の結果,呼気前期ではネガティブ表情に対する判断反応が僅かに遅れていた.ここでも,呼吸の影響が知覚内容の感情価,あるいは感情カテゴリーに依存する可能性が示唆されている.ただし,これらは極めて弱い効果であり,さらに呼吸位相以外の関連要因・統制要因も進める必要がある.
2: おおむね順調に進展している
3つの研究項目のうち1つ「呼吸位相が感情強度の知覚に及ぼす影響」が進展し,また研究項目3「心身相関の個人差要因」についても前倒しで進行している.
H28年度は,身体内受容感覚の心理学的研究における世界的権威の一人であるO. Pollatos教授(ドイツ・ウルム大学)の研究室に滞在し,主に研究項目1「呼吸位相が感情強度の知覚に及ぼす影響」を検討する実験を中心にデータを集める.ここで欧州のデータを収集し,H29年度の予定である研究項目3の「心身相関の個人差要因」について,国際比較・文化比較という観点からの検討も,本年度から前倒しで始める.
新生児の計画ではH27年度は200万円超のポリグラフ装置を購入する予定であった.交付額がこれに満たなかったために,H27年度は予算を執行せず,次年度繰り越しにより,H28年度交付額と合算で購入する予定である.
H28年度に呼吸と心拍,脳波同時測定可能のポリグラフ装置を購入することで執行する.本装置購入は本計画申請段階で計上していたものである.H28年度はその他,当該年度交付額を,実験参加者謝金,論文校閲・投稿料,出張旅費に使用する.
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Psychiatry Research
巻: 230 ページ: 78-83
http://dx.doi.org/10.1016/j.psychres.2015.08.023