本研究は,身体の生理活動がリアルタイムで認知に与える影響を明らかにするために,息を吸う・吐くという呼吸の位相と,心拍の拡張期・収縮期の位相が,自己/他者の感情の認識や印象に与える影響を検討するものである。 H29年度は,内受容感覚と外受容感覚の時間的統合(両刺激の同期性)に関する脳波ERPのパターンを報告した(Fukushima et al. in press)。また,下記の成果をまとめ,それぞれ学会発表を行った。現在各成果の論文化を進めている。 <心拍と呼吸の位相が中性表情の感情価判断に及ぼす影響> 刺激が提示された瞬間の心拍および呼吸の位相が,ニュートラル表情刺激の感情価判断に及ぼす影響を検討した。実験の結果,心拍位相については,拡張期と比べて収縮期に提示された刺激に対する感情価がより明確になっていた。また呼吸周期については,呼気の途中に刺激が提示された場合に,他の相に比べて,ポジティブな感情価の評価が強くなる傾向が示唆された。さらに,このようなパターンには,内受容感覚の個人差との正の相関が観測された。 <呼吸性脳波変動の基本動態および個人差の検討> 呼吸と認知のリアルタイムの連動について,神経活動レベルでのメカニズムを理解するために,呼吸の吸気・呼気のサイクルに連動して脳波の各周波数のパワーがどのように変動するか,その変動の個人差がどのような機能と関連するか,という2点を検討した。その結果,呼吸に合わせた脳波振幅の変動パターンを記述するとともに,とくに高周波ガンマ帯域パワーの呼吸性変動量には,個人の呼吸性心拍数変動の強さや,呼吸性内受容感覚の正確さと負の相関が見られた。 これらの知見は,内受容感覚が意識的な感情知覚に及ぼす影響とそのメカニズムに関して新たな知見と研究方法を提供するものと言える。
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