研究課題/領域番号 |
15K21523
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
岡野 圭子 (今井圭子) 関西医科大学, 医学部, 助教 (90454610)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | シアノバクテリア / 概日時計 / プロテオーム解析 |
研究実績の概要 |
概日リズム研究のモデル生物であるシアノバクテリアでは、遺伝学的解析から概日時計を構成する三つの必須時計遺伝子kaiA, kaiB, kaiCが同定されており、3つの時計蛋白質KaiA, KaiB, KaiCによる化学的振動が時計の中核であることが示されている。しかし、細胞分裂や代謝などの外乱にさらされた細胞内での正確な24時間振動の維持機構は明らかでない。細胞内でKaiC量は概日振動し、KaiA, KaiBを含む巨大複合体を形成する。この複合体サイズは時間依存的に変化し、複合体サイズから未知の因子を含む事が示唆されているが、形成する因子の全容は明らかでない。 本研究で、時間依存的な構成因子とそれに伴う機能変化を明らかにする事を目的にしてKaiC複合体のプロテオーム解析を行なっている。主観的昼と主観的夜の野生型KaiC複合体にそれぞれ含まれる蛋白質の候補をLC―MS/MSを用いた質量分析により検出した。また、転写活性における複合体の役割を明らかにするため、転写活性がほとんどない連続暗条件下でもKaiC複合体の構成因子の概日変化についての比較解析も行った。それぞれの時間に特異的にKaiCと結合している因子候補について注目し、遺伝子の破壊株のリズム表現型の確認や、KaiCを含む時計蛋白質との相互作用等、詳細な解析を行っている。候補遺伝子の破壊を試み、いくつかの遺伝子については形質転換体が得られたが、シアノバクテリアの概日時計への影響がみられる因子は今のところ見つかっていない。既に遺伝子破壊による長周期化が示されているプロテアーゼClpPファミリー蛋白質もKaiC複合体構成因子の候補として得られた。それらの蛋白質とKaiCのin vitroでの相互作用を確認した。ClpP1, ClpP2, ClpRにとても弱い結合が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までに、野生株を用いてのKaiCの複合体の構成因子候補を同定するための、LC―MS/MSを用いた質量分析によるプロテオーム解析はほぼ終了した。主観的夜(連続明16時間)、主観的昼(連続明4時間)、連続暗条件下(連続暗4時間、連続暗16時間)のそれぞれのシアノバクテリアの細胞抽出液から、KaiC蛋白質と結合している因子をaffinity精製し、その後プロテオーム解析をした。それぞれの条件で結合している可能性のある因子が得られ、各条件で特異的に強く結合している因子を優先的に解析する事を試みている。既に結合する事が示されている時計関連遺伝子の結合は確認されており、プロテオーム解析データの信頼性は高いと考えられる。しかしながら、精製過程での非特異的な結合の完全な排除が困難であり、候補因子の効率的な選抜に課題がある。また、必須遺伝子の為か遺伝子破壊株が作成できない、作成できてもリズムに異常がみられない等の理由により、リズム測定による候補因子の絞り込みは、まだうまくいっていない。 KaiCの分解に関与する候補因子として解析を進めているClpプロテアーゼについては、in vitroでの相互作用の確認を試みた。大腸菌にもClpプロテアーゼが存在するためか、発現が難しく様々な発現ベクターを試した。シアノバクテリア内での過剰発現用ベクターで大腸菌内でも少量のClp群の発現に成功し、相互作用を確認した。ClpP1, ClpP2, ClpRにとても弱い結合が確認された。また、候補因子のクローニングやコンストラクションにおいても、遺伝子の性質などの原因もありいくつかの因子については容易ではなく、試行錯誤をしているところである。
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今後の研究の推進方策 |
LC-MS/MSの結果から、KaiCに結合する新規因子の候補がいくつか得られた。候補因子の中からKaiCと実際に結合し、シアノバクテリアの概日時計に影響を与える因子を同定し、その機能解析をする。時間依存的、KaiCリン酸化依存的な相互作用の変化、光条件依存的な相互作用の変化など、顕著な違いがみられたタンパク質について、優先的に解析を行う予定である。 シアノバクテリアでの候補因子の遺伝子破壊株を作成し、自動発光測定装置で効率よくリズムへの影響を確認する。破壊株が作成できない可能性もあるため、過剰発現株の作成も検討する。同時に、実際にKaiCタンパク質や時計関連タンパク質とそれらの候補タンパク質が直接的に結合しているかを、酵母ツーハイブリット法、in vitro、in vivoの免疫沈降により確認する。 KaiCの分解に関与が予想される因子の機能解析を行い、分解制御との関連性を明らかにする。Clpプロテアーゼ群については、既にリズムへの影響が確認されており、in vitroでのKaiCや他の時計関連タンパク質との直接的な相互作用の確認を優先して行う。 また、in vitro系を持いて行った分解活性の解析により、KaiCの細胞内での分解が細胞の時間に依存的ではなく、KaiCのリン酸化状態に依存的であることが解った。そこで、リン酸化変異体を用いたLC-MS/MSでの解析を行い、リン酸化状態依存的にKaiCと結合する因子の探索を行い、野生株での結果と比較検証する。 これらの結果をまとめ、成果発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
自動測定環境を整えるために光照度を調節可能なLED照明装置を新たに購入することを計画していたが、破壊株作成がうまくいっていなかったので今年度には購入をしなかった。また、相互作用確認のためのクローニングやコンストラクションが予定通りに行えず、タンパク質の精製カラムなどの購入には至っていない。
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次年度使用額の使用計画 |
LED照明装置は次年度早々に購入を予定している。タンパク質の相互作用の確認のため、抗体や精製用のカラムなどの消耗品、コンストラクションのためのプラスミド等の購入、また、試薬、培地、プラスチック器具などの消耗品も購入も計画している。これらを用いて効率的に研究を推進し、その成果を時間生物学会、植物生理学会での学会発表を行う予定である。
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