研究実績の概要 |
EGFR 遺伝子変異や、EML4-ALK 変異等のドライバー遺伝子変異陽性肺癌は、分子標的薬の登場により、従来の治療法を上回る効果が得られている。我々は、EGFR 遺伝子変異陽性肺癌に於いて、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤への奏効が、生存期間に関連する因子であることを見出した(Takeda M, et al. JThorac Oncol. 2014)。本研究は、分子標的薬の感受性の違いが共発現する遺伝子異常によるとの仮説のもと、診断時腫瘍の遺伝子解析を実施し、ドライバー遺伝子異常以外の新たな分子異常を同定することで、分子標的薬の治療効果を改善させうる治療標的かどうか基礎的検討を行い、新たな治療ストラテジーを構築することを目的とする。 本年度は、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)腫瘍検体から抽出されたDNA, RNAを用い、肺癌で活性型遺伝子変異が同定されている22遺伝子及びALK, RET, ROS1, NTRK1融合遺伝子の72バリアントを解析遺伝子に含んだ次世代シーケンサーを用いたマルチプレックス遺伝子解析を行い、活性型遺伝子変異の検出頻度や、変異に基づいて分子標的治療薬が導入された症例割合、全生存期間について前向きに検討した。少なくとも1つ以上のアミノ酸置換を生じる遺伝子変異は、69%の症例に認められ、活性型遺伝子変異は全体の44例(40%)に同定され、全生存期間は、活性型遺伝子変異を有し、分子標的薬を導入した症例群は、変異の無い症例群、および、活性型変異を有するが、分子標的薬の導入に至らなかった症例と比較し、有意に延長を示した(Takeda M, et al. Annals of oncology,26:2477-82,2015)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
気管支鏡生検査等から得られる検体量は限られている。今回我々は、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)腫瘍検体から抽出されたDNA, RNAを用い、肺癌で活性型遺伝子変異が同定されている22遺伝子及びALK, RET, ROS1, NTRK1融合遺伝子の72バリアントを解析遺伝子に含んだ次世代シーケンサーを用いたマルチプレックス遺伝子解析を行い、2013年7月~2015年3月に診断された肺癌110例を解析対象に、FFPEからDNA, RNA抽出後遺伝子変異解析実施可能例は、それぞれ95%、96%と高率に遺伝子変異を検出することが可能であった(Takeda M, et al. Annals of oncology,26:2477-82,2015)。 本アッセイを使用し、当科にてクリゾチニブが実施されたEML4-ALK陽性非小細胞肺癌症例、及びEGFR阻害剤(ゲフィチニブ、エルロチニブ)が投与されたEGFR変異陽性肺癌に対して、診断時の組織を使用し、次世代シーケンサーを用いて体細胞遺伝子変異解析を行うことで、活性型遺伝子変異の検出頻度及び分子標的薬剤に対する感受性を評価することが可能である。
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今後の研究の推進方策 |
2013年7月~2015年3月に診断された肺癌110例を解析対象に、少なくとも1つ以上のアミノ酸置換を生じる遺伝子変異は、69%の症例に認められ、検出された主な遺伝子変異は、TP53(38%), EGFR(23%), STK11(11%), KRAS(9%), MET(6%), SMAD4(6%), ERBB4(4%),FBXW7(4%), PIK3CA(4%), BRAF(2%), AKT1(2%), DDR2(2%)であり、Fusion遺伝子としては、EML4-ALK(1%),CCDC6-RET(1%),KIF5B-RET(1%),SLC34A2-ROS1(1%)に認められた。これらの遺伝子変異の頻度は従来の報告と差異はない。活性型遺伝子変異は全体の44例(40%)に同定され、内訳は腺癌(50%)、扁平上皮癌(14%)、小細胞肺癌(0%)に示した。DDR2変異であるW251RとL604Pは新規に同定された遺伝子変異であり、HEK293細胞株にこれらの遺伝子変異を導入するも細胞増殖活性は認められず、DDR2阻害剤であるDasatinibに抗腫瘍効果を示さないため、がん増殖に寄与しない遺伝子変異と考えられた。 今後の研究としては、次世代シーケンサーにて測定された遺伝子変異測定パネルの結果をもとに、ドライバー変異陽性症例を対象に、治療効果、予後等の臨床情報との相関解析を行い、分子標的薬の感受性に寄与している候補遺伝子を抽出する。
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