研究実績の概要 |
EGFR 遺伝子変異や、EML4-ALK 変異等のドライバー遺伝子変異陽性肺癌は、分子標的薬の登場により、従来の治療であるプラチナ併用化学療法を上回る治療成績が得られている。EGFR遺伝子変異陽性肺癌はEGFRチロシンキナーゼ阻害剤に対して、約7割の奏効を示すが、無増悪生存期間と関連あるサロゲートマーカーは報告されていなかった。我々は、EGFチロシンキナーゼ阻害剤にて治療歴のあるREGFR遺伝子変異陽性肺癌に於いて、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤への奏効が、生存期間に関連する因子であることを見出した(Takeda M, et al. J Thorac Oncol. 2014)。また、診断時の肺癌組織を用い、次世代シーケンサーを用いた治療最適化のためのクリニカルシーケンスを実施しており、その有用性を示してきた(Takeda M, et al. Ann of Oncol. 2015)。ドライバー遺伝子陽性肺癌は、通常1遺伝子異常で発癌すると考えられてきたが、本クリニカルシーケンスからはドライバー遺伝子陽性肺癌の場合でも、ドライバー遺伝子異常以外に共発現する遺伝子異常を伴うことが認められた。本研究は、分子標的薬の感受性の違いが共発現する遺伝子異常によるとの仮説のもと、診断時腫瘍の遺伝子解析を実施し、ドライバー遺伝子異常以外の新たな分子異常を同定することで、分子標的薬の治療効果を改善させうる治療標的かどうか基礎的検討を行い、新たな治療ストラテジーを構築することを目的とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
診断時のホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)腫瘍検体から抽出されたDNA, RNAを用い、肺癌で活性型遺伝子変異が同定されている22遺伝子及び、ALK, RET, ROS1, NTRK1融合遺伝子の72バリアントを解析遺伝子に含んだ次世代シーケンサーを用いたマルチプレックス遺伝子解析を行い、活性型遺伝子変異の検出頻度や、変異に基づいて未承認薬(治験薬)も含めた分子標的治療薬が導入された症例割合、全生存期間について前向きに検討した(UMIN000014782)。2013年7月~2015年3月に近畿大学で診断された肺癌110例の腫瘍組織を解析対象とした。検出された主な遺伝子変異は、TP53(42症例), EGFR(25症例), STK11(12症例), KRAS(10症例)等であり、活性型遺伝子変異は全体の44例(40%)に同定され、内訳は腺癌(50%)、扁平上皮癌(14%)に認めた。活性型遺伝子変異を有し分子標的薬を受けた症例群(生存期間中央値未到達)は、変異の無い症例群(生存期間中央値18.1か月、P=0.041)、および、活性型変異を有するが分子標的薬を受けない症例群(生存期間中央値6.1か月、P=0.0027)と比較し、有意に全生存期間を延長した。上記前向き研究より、FFPE等の微量検体由来の活性型遺伝子変異・融合遺伝子解析を95%以上の症例で実施可能であり、承認および未承認の分子標的薬の適応を考慮する上で、マルチプレックス遺伝子解析の臨床的有用性が実証された。
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今後の研究の推進方策 |
薬剤感受性に寄与する候補遺伝子のin vitroに於ける強制発現及びsiRNAによる発現抑制による感受性変化を評価する手段として、上記検討から得られた候補遺伝子について、EGFR変異肺癌細胞株、EML4-ALK肺癌細胞株を用い、候補遺伝子をレトロウイルスベクターを用いた強制発現やsiRNAによる発現抑制により、EGFR-TKI、クリゾチニブの感受性に関わるかを検討する。本研究室では、レトロウイルスを用いた種々の遺伝子の強制発現系を確立しており(Okamoto W, et al. Mol Cancer Ther. 2010)、手技的には問題ない。 また、EGFR変異肺癌細胞株PC-9、KT-2、KT-4、Ma-1、H1650 (Okabe T, et al. Can Res. 2007)、及びEML4-ALK肺癌細胞株であるH2228、H3122を所持している(Tanizaki J, et al. Br J Cancer. 2012)。候補遺伝子変異の強発現株と、その親株の肺癌細胞株において、薬剤暴露により引き起こされる下流シグナルの変化とアポトーシスについて、それぞれ、Westernblot法とAnnexin法にて比較検討する。これらの系はすでに我々の研究室にて確立しており実施可能であり、候補遺伝子の生物学的意義を明らかにする。
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