平成30年度は、これまで調査した『詩経』図譜の編纂・刊行背景を考察するとともに、この過程で改めて必要となった資料を調査・収集した。 考察については、まず、これまで調査し得た15種の『詩経』図譜の編者と経歴、図譜の内容と特徴を整理し、「日本『詩経』図譜初探」にまとめた。そして、この成果をもとに、日本『詩経』図譜の特徴を考察する上で鍵となるであろう二つの現象、すなわち、①日本『詩経』図譜の考証方法の先鞭をつけたと考えられる稲生若水の物産学、②徐鼎『毛詩名物図説』翻刻の経緯と受容の分析を試みた。 ①について、稲生若水『詩経小識』に見える考証方法や京都大学や金沢市立図書館、杏雨書屋に所蔵の関連資料により、稲生若水は新井白石より依頼された『詩経』動植物考証に際して、まず明の馮復京『六家詩名物疏』を参照し、その上で、物産の大著『庶物類纂』編纂のために抜書していた本草書や医書、地方志の記載を参照したこと考えられた。このように稲生若水が物産学の観点から『詩経』動植物を考証したことは、その後の日本の『詩経』図譜や『詩経』名物考証書の方向性を決定づけたと推測される。②については、『毛詩名物図説』をめぐる春木煥光とその師である小野蘭山の問答の写本を解読・分析したところ、同書は当初小野蘭山の弟子が和名・訓点を施したが、後に北条蠖堂が買い取り改竄したこと、そして春木と小野の両者が客観的に『毛詩名物図説』の内容を検討していることが明らかとなった。 以上二つの現象の考察はほぼ終えており、論文を作成中であったが、平成30年度中に完成させることができなかった。これまで調査し得た多くの資料の考察結果を含めて、この数年以内に論文化し公表したいと考えている。 資料調査については、主に稲生若水と物産学の関係を記した資料と春木煥光の動植物考証に関する資料、そして新たに発見した『詩経』動植物の考証書を調査・収集した。
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