本研究は、粒子径可変ナノキャリアによる、腫瘍血管から遠距離の低酸素領域に及ぶ広範囲がん組織への効率的な難水溶性薬物の送達を目的とする。低酸素領域は治療抵抗性・浸潤能の高さ、がん幹細胞の存在により有用な標的化部位である一方、送達効率の向上にはナノキャリアの柔軟な設計が要求される。2年間からなる本研究の当初計画として、初年度にマイクロリアクタを用いた当該ナノキャリアの構築法を確立し、最終年度にマウスを用いたin vivo評価を行う予定であった。しかしながら、高薬物封入率を達成するために初年度計画が次年度に持ち越さざるをえなかっただけでなく、当初想定した以上に調製条件の最適化が必要であり、研究期間の1年延長が妥当であると判断した。 延長期間となる平成29年度は、30 nmかつ単分散からなる当該ナノキャリアの構築を目標としてマイクロリアクタを使用した調製条件の最適化を行った。当該ナノ粒子形成後における揮発性有機溶媒除去条件を穏和にした上で、中核的構成素材となる生分解性高分子の最適化から30 nmとなる組成を見出した。生分解性高分子表面を覆う脂質としてポリエチレングリコール結合脂質およびリン脂質の複合組成とすることで、薬物封入条件下においても30 nmかつ単分散の物性を達成した。本物性は調製スケールに関係なく同等であり、ある種の緩衝液のみにおいて達成されることを明らかとした。さらに、薬物未封入の当該ナノキャリアのみでは検討濃度域において細胞毒性は確認されなかったのに対し、薬物封入時には薬物DMSO溶液と比較して2倍以上高い細胞毒性を発揮した。しかしながら、封入薬物の50%が30分で放出されることが次なる課題である。今後は組成や調製方法といった広い観点から本課題の解決に務めることががんナノ医療のさらなる発展に貢献すると考えられる。
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