研究課題/領域番号 |
15K21540
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研究機関 | 大阪人間科学大学 |
研究代表者 |
金澤 佑治 大阪人間科学大学, 人間科学部, 講師 (60620656)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 老化 / 骨格筋 / 廃用性筋萎縮 / 基底板 / 細胞外マトリックス / 後肢非荷重 / 再荷重 |
研究実績の概要 |
本研究では老年期の廃用性筋萎縮からの回復過程における分子機構を明らかにして、リハビリテーション的治療戦略を構築することを目的としている。実験動物は老年Wistarラットと若年Wistarラットを用いた。これらの実験動物を尾懸垂によって後肢を免荷することで廃用性筋萎縮を引き起こして、再荷重負荷によって筋萎縮の回復を促した。対象とした筋は廃用性筋萎縮が生じやすい抗重力筋であるヒラメ筋とした。廃用性筋萎縮からの回復過程において筋線維の形態学的な解析を行った結果、老年ラットの筋線維ならびにそれを取り囲む基底板が再荷重負荷によって損傷していることが明らかとなった。さらに基底板構造が損傷している筋線維はネクローシスを呈することも分かった。これらのことは、老化が筋萎縮からの回復過程に基底板構造に異常をもたらし、筋を脆弱化している事を示唆している。さらに基底板コンポーネントの産生能を年齢間で比較した結果、若年ラットは筋萎縮時から回復期にかけて基底板コンポーネントの産生が促進されるのに対して、老年ラットではそのような反応を示さないことが分かった。このことは老化が骨格筋基底板の構築能を障害していることを示唆している。老年期の廃用性筋萎縮に対する治療戦略を検討する際に、筋線維のみならずそれを取り囲む基底板すなわち細胞外マトリックスの構造を如何にして保持あるいはリモデリングを促すかが重要であることが分かった。 上記実験と並行して、老化促進マウスを用いた実験を実施している。老化促進マウスに廃用性筋萎縮を引き起こして、その後の回復過程を追跡した。ヒラメ筋を対象にトランスクリプトーム解析を実施した結果、代謝やタンパク分解に関与する遺伝子の変動が老化促進マウスと対象動物で異なることを見出した。詳細なメカニズムについては、今後検証する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究計画は老化による萎縮筋回復の遅延における分子メカニズムの解明であった。 老化ラットを用いた実験では、萎縮筋の回復過程で骨格筋基底板コンポーネントの産生が障害されることが明らかとなった。そのメカニズムとしては基底板の分解能が老化によって亢進するのではなく、基底板コンポーネントの構成因子や機能化を促進する因子の発現が老化によって抑制されていることが分かった。このように、平成28年度は老化による萎縮筋回復の遅延における分子メカニズムの一部が明らかとなったことから、当初の研究計画がおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、老化によって発現が低下する基底板コンポーネントの構成因子や機能化を促進する因子が、萎縮筋の治療ターゲットとして、どれほどのポテンシャルを有するかを検証する予定である。 さらに本研究では老化ラットのみならず老化促進マウスも用いて、研究を進めている。 現在、老化促進マウスの骨格筋を対象にトランスクリプトーム解析を実施している。 マウスから得られた情報についても今後さらに解析を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
マウスのヒラメ筋は非常に質量が小さく、回収できる全RNA量も限られる。そのため、トランスクリプトーム解析にはより多くの動物とその筋サンプルを必要となる。しかしながら、今回トランスクリプトーム解析に用いたGene chipは微量なRNAで解析が可能であったことや、筋サンプルからのRNAを精製して効率的に純度の高いRNAを回収できたことで、当初の計画よりも実験動物や消耗品の使用量を節約することができた。そのため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
老化促進マウスの骨格筋を対象に行ったトランスクリプトーム解析によって、骨格筋の老化に関与する因子を抽出して、その因子がどのように骨格筋の老化に関与しているかという分子メカニズムを今後探索する予定である。次年度使用額は、この実験に使用する試薬や実験動物の購入に利用する。
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