【目的】骨格筋が老化すると、廃用性筋萎縮の回復が遅延することが知られている。しかし、回復が遅延する原因や詳細なメカニズムには未解明な点が多く存在している。そこで老化した骨格筋に生じた廃用性筋萎縮の回復過程における分子機構を明らかにすることを目的に、3ヶ月齢ならびに20ヶ月齢の雄Wistarラットを用いて萎縮筋の回復過程を比較した。 【方法】ラットの尾部を懸垂して後肢を免荷することで抗重力筋のヒラメ筋に廃用性筋萎縮を引き起こし、その後、尾懸垂から解放して後肢に再荷重負荷を加えて萎縮筋の回復を促した。その過程において後肢免荷後0日、14日、再荷重後1日、7日にヒラメ筋を採取し、形態学的観察と定量的PCRにて遺伝子発現変動の解析を行った。 【結果】20ヶ月齢ラットでは回復期においてネクローシスを呈した筋線維や中心核細胞が増加しており、筋線維が損傷を受けていることがわかった。損傷した筋の微細構造を観察すると、損傷筋を取り囲む基底板が蛇行し、部分的に裂けている像が確認された。一方、3ヶ月齢ではこれらの所見は観察されなかった。さらに3ヶ月齢では、再荷重によって基底板構築に関連する複数の遺伝子発現レベルが上昇したが、20ヶ月齢では発現が変動しなかった。 【考察】20ヶ月齢ラットでは回復期に基底板が損傷し、さらに基底板構築の関連因子の発現が変動しないことから、老年期では基底板の構築に必要な因子の不足によって、筋損傷が起こり回復の障害をまねくと考えられる。さらに、基底板の主成分は線維芽細胞によって産生されることから、萎縮筋の回復障害の主原因は従来の説である筋細胞の老化ではなく、“線維芽細胞の老化である”ことが示唆される。 【結論】老化したヒラメ筋の回復過程では基底板関連因子の発現低下によって基底板に異常が生じ、筋の回復が遅延することが示唆された。
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