2018年度は前年度の状況を踏まえて追加して計測を継続して実施した.またこれまでに採用してきた加速度波形解析に加えて,米田らの提案した解析方法も含め,アプリケーションに実装する解析指標を検討した. 認知機能に問題がなく,二重課題条件下で歩行が可能であった一般高齢者を対象とした検討では,高速フーリエ変換により得たスペクトル波形から導出したエントロピー値,橋梁工学において橋梁振動に対する影響推定に用いられるDynamic lord factor,米田らが提案した歩調成分とその0.5倍の周波数帯域に現れるスペクトルの合成波形比を表すPower spectrum ratioは転倒経験の有無に有意に関連した.また単一課題条件における歩行状態よりも二重課題条件下における歩行状態の方が転倒経験の有無を高い精度で判別可能であることが示された.また経過観察中に発生した新規転倒発生に関わる歩行指標を検討した.その検討では,従来から予測研究に使用されるロジスティック回帰分析のほか,Clinical prediction ruleの作成で有用性が確認され,近年のビッグデータ解析にも用いられることがある決定木分析による検討も行った.その結果,年齢や認知機能などの影響力は小さく,その発生予測には二重課題条件下における歩行状態が関与し,前述のエントロピー値がその発生予測判別に有用であることが示された. さらに上記指標を用いて,大腿骨近位部骨折患者,パーキンソン病患者を対象とした検討を加え,歩行状態の変化をそれらの指標が適切に表現可能なのかを検討した.その結果,どちらの疾患群においても,体幹部に設置したセンサーにより記録した加速度波形から歩行状態の変化を捉えることは可能であることが示された.
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