本研究は、一貫性のあるマーケティング戦略実行のため、企業ブランドという資源をいかに管理し、企業ブランド成果や財務成果の向上につなげるかという問いを持つ。この問いを明らかにしていく上で、企業ブランドの利用者である社内メンバーの企業ブランドへの理解と利用に関する認識の違いに着目した。企業ブランド管理は、マネジメント層の意思決定事項として捉えられたため、主に組織構造や権限の配置といった機械的な調整からアプローチされることが多かった。それに対し、本研究は、企業ブランド資源を利用する社内メンバーの視点を加え、企業ブランド管理の効果とあり方を調べているところに、研究の重要性及び意義がある。特に、社内メンバー間の企業ブランドに関する認識と理解の問題は、互いの物理的な距離と理解する市場環境の異質性により大きく影響を受けることから、海外展開を行っている日本の製造企業に焦点を当てた。 具体的に、研究期間中に、日本の製造企業を対象に質問票調査を実施し、収集したデータを基に分析を行った。分析結果から、企業ブランドマネジメントは、競合企業との差別的な製品・サービスを実現するようサポートすることで、企業成果を高めていることが明らかになった。なお、複数の海外市場のニーズのそれぞれに合わせた製品・サービスよりも、日本国内と同様に標準化した製品を展開する企業において、企業ブランドマネジメントが企業の差別化を促進していた。この結果は、企業ブランドマネジメントは、本社と海外統括本部のメンバー間の企業ブランドへの認識と理解の不一致レベルを減らすが、その効果は、海外市場で標準化された製品を通じて特定の顧客セグメントに特化し、企業ブランドを活用することを可能とする、かつ企業内の行動的な分散を軽減するがためであると考えられる。この研究結果は、海外学会で発表され、論文として投稿中である。
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