研究課題/領域番号 |
15K21555
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
岩本 英希 久留米大学, 医学部, 助教 (40529541)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 肝細胞癌 / 血管新生 / 血管新生阻害剤 / 耐性 / AMPK |
研究実績の概要 |
本研究は癌治療における血管新生阻害剤の耐性メカニズムについてエネルギー代謝を中心に研究しているものである。肝癌皮下腫瘍モデルを用いて血管新生阻害剤を投与した癌組織を採取した。治療後癌組織をエネルギー恒常性の中核因子であるAMPKを免疫染色法で評価したところ、血管新生阻害剤の投与により癌組織内のAMPKが活性化する事を明らかにした。AMPKが血管新生阻害剤耐性メカニズムに関与するか否かについて検証する為、3種類の肝癌細胞株のAMPK安定的欠失細胞株を作製した。これらの確認の為に、ウェスタンブロット法、リアルタイムPCR法を用いてAMPKの発現レベルをそれぞれの癌細胞で評価し、発現レベルが低下している事を確認した。AMPK欠失肝癌細胞株の作成に成功したため、次にこれらの癌細胞が血管新生阻害剤に対してどのように反応するかを検証する事とした。それぞれの細胞株を培養し、増殖アッセイを行った。増殖アッセイは正常酸素下、低酸素下、飢餓条件下の種々の培養環境で行った。種々の培養環境下で行ったのは、血管新生阻害治療により起こり得る腫瘍の環境を想定し、低酸素、飢餓条件により増殖アッセイを行った。AMPK欠失肝癌細胞は対照となる肝癌細胞と比べても種々の環境による細胞培養においても明らかな脆弱性は認めなかった。in vitroの系ではAMPKが明らかに血管新生阻害剤耐性に関与する事は証明できなかった。確認の為、in vivoでの評価も行った。皮下肝癌モデルを用いてAMPK欠失肝癌細胞に対し血管新生阻害剤を投与したが、対照となる肝癌細胞と比べて抗腫瘍効果において明らかな違いは現れなかった。これまでの検証ではAMPKが血管新生阻害剤の耐性に関与するという事は証明できなかった。次に、AMPK以外の腫瘍エネルギー代謝に関わる重要な因子を抽出し血管新生阻害剤体制への関与を検証していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の計画は1血管新生阻害剤により肝癌細胞でAMPKが活性化する事の証明、2AMPK欠失肝癌細胞をshRNAを用いて作製する事、3AMPK欠失肝癌細胞が血管新生阻害剤耐性に関与するかどうかをin vitro、in vivoの実験系で検証するまでを予定していた。初年度はこれら予定した全ての検証を行う事ができた。従って、計画の遂行としては順調に進んだと言える。 しかし、これまでの検証によりAMPKは血管新生阻害剤の耐性メカニズムには明らかに関与していない事が残念ながら示唆された。従って、実験開始時に立てた仮説は否定的と考えられた。そのため、AMPK以外のエネルギー代謝に関わる分子が血管新生阻害の耐性メカニズムに関与するという新たな仮説を立て、次年度に検証を行う方針としている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では、まず血管新生阻害剤において活性化されるエネルギー代謝の検索を行う。癌細胞のエネルギー代謝として、PKM2を介した解糖系の活性化、CD147を介した乳酸の排泄経路が重要である事が他の文献では報告されており、これらを中心に検証していく予定である。また、血管新生阻害剤では腫瘍内に著明な低酸素が引き起こされる事はこれまでの文献で明らかであり、低酸素に関わる分子の耐性メカニズムについても同時に検証し、血管新生阻害剤耐性に関わるエネルギー代謝の分子を発見する。 そして、活性化している分子の欠失肝癌細胞株を作製し、増殖アッセイと肝癌皮下腫瘍モデルを用いて血管新生阻害剤耐性に関与している事を明らかにしていく。また、エネルギー代謝に関わる分子を標的とする抑制剤を用いた薬理学的検証も行う事としている。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に購入予定としていた種々の抗体などが実験計画の一部変更により購入せずに行う事が出来たため、予定した購入金額より少額の使用となった。また、その他に挙げていたマイクロアレイによる網羅的解析費用が次年度に移行したため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
初年度に予定していたマイクロアレイによる網羅的解析費用が次年度に移行する。初年度その他の項目に予定していた通りの金額になる事が予測される。次年度は実験計画の変更を余儀なくされているため、追加の抗体、sh-RNA、実験関連試薬の購入が必要となり次年度使用額の物品購入費がかかる事が予測される。
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