肺炎クラミジア感染に起因するマクロファージの泡沫細胞化について,その分子メカニズムの解析を試みた.マウス骨髄由来マクロファージに対して肺炎クラミジアを感染させ,泡沫細胞化に関連すると予想される様々なスカベンジャー受容体の挙動をmRNA発現レベルおよびタンパク質発現レベルで経時的に解析し,人為的に誘導した炎症性マクロファージ(M1マクロファージ)および抗炎症性マクロファージ(M2マクロファージ)と比較検討した.その結果,各々のスカベンジャー受容体は当初推測されていた抗M2マクロファージタイプよりも寧ろM1マクロファージの発現パターンに近いことが明らかとなった. 当初,我々は肺炎クラミジアがマクロファージに感染すると直接的にM2マクロファージタイプに移行すると推測してきたが,上記の結果から,新たなスキームが考えられた.肺炎クラミジアがマクロファージに感染すると,まずM1マクロファージに分化し,そこで各々のスカベンジャー受容体の発現が亢進することで細胞外からの脂質取り込み能が増強され,脂肪滴の形成が促進される.その後,脂肪滴の分解に関わるLysosomal Acid Lipase (LAL) の発現および活性が高まることで,M2マクロファージへ「分化の振り戻し」が起こると考えられる.肺炎クラミジア感染マクロファージにおけるiNOS分子(M1マクロファージのマーカー)とArg-1分子(M2マクロファージのマーカー)発現の経時的変化はこれを強く支持する. なお,LALは細胞内脂肪滴の分解に関わる因子であること,M2マクロファージではβ酸化系による脂質分解系を介したATP産生が優位となっていることから.これらが細胞内におけるクラミジアの増殖に好適な環境となっていることが推測され,豊富に存在するATPや脂質を利用してマクロファージ内で増殖するのではないかと考えられた.
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