研究課題/領域番号 |
15K21567
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研究機関 | 安田女子大学 |
研究代表者 |
吉良 史明 安田女子大学, 文学部, 講師 (50707833)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 中島広足 / 木下逸雲 / 青木永章 / 来舶清人 / 沈萍香 / 煎茶 / 異国趣味 |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年度に引き続き、長崎歴史文化博物館所蔵の長崎歌壇および画壇関連資料の調査収集を行い、その点数は100点近くに及んだ。また、杜の美術館 in雲仙所蔵の長崎文人関連資料の調査も実施し、およそ30数点の資料を調査するとともにデジタルカメラによる撮影を行った。 さらに、昨年度からの調査成果を取り纏め、平成28年度九州大学国語国文学会において「近世後期長崎の雅会」と題した発表を行い、近世後期長崎における雅会の実態を検証した。従来近代短歌に先駆けて歌題の拡がりをうかがわせる例としてのみ和歌史上に位置づけられてきた中島広足の和歌に関して、異国趣味の広足歌文が作られた内実を明らかにしたものである。異国趣味の広足歌文が作られた背景には近世後期長崎における唐物趣味の流行があり、広足は長崎商人および会所役人等の求めに応じて、和漢の文人の書画を取り集めた書画帖に揮毫し、書画帖の序も執筆していたこと、また同じく長崎商人からの依頼を受けて、唐物の道具を画題とした画に和文の讃を記していたことを考察した。さらに、青木永章著・木下逸雲画『観蓮記』および広足『観蓮記』の成立を検証し、浦上新田の蓮見が近世後期の長崎において流行しており、その模様を描いた作品であること、蓮愛好の背景には愛蓮説等の中国の文人趣味を模倣して近世後期長崎においても蓮を愛でる機運が高まりを見せていたことを論じた。 また、近時は近世後期長崎における煎茶道の興隆と広足歌文との関連を検証している。広足和文の多くには長崎における煎茶愛好の模様が記されており、また明治初期の例ではあるが、広足自画賛の軸物を茶掛けの軸として用いていた例を確認している。近世後期の長崎の煎茶の会においては、唐物の掛け物を始めとする茶道具が多く設えられており、唐物趣味の広足和文もまた煎茶道興隆との関連が深いことが浮かび上がりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の通り、本年度は予定していた長崎歴史文化博物館と杜の美術館 in 仙の調査を実施し、今後の調査計画を立てることが出来たので、調査計画はおよそ順調に進行していると評価できる。 また、調査収集資料に基づき、近世後期長崎における異文化融合の内実を検証する研究を順調に進めることも出来た。当初の予想を越えて、煎茶道の流行との関連等、新たな研究の視点も浮かび上がりつつあり、目下複数の論考に取り纏める作業を進めているところである。 以上の二つの理由から、おおむね順調に進展しているとする自己評価を下した。
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今後の研究の推進方策 |
来年度においては、本年度の実施状況をさらに進展させ、取り分け杜の美術館の調査に重点を置いて進めていきたい。 さらに、学会発表し論考に取り纏めるに充分な資料の蓄積がなされつつあるため、資料収集と平行して複数の論考の執筆を行っていく計画である。その具体的なタイトルは、①近世後期長崎歌壇の様相②近世後期長崎における異国趣味の流行と長崎橿園社中③近世後期長崎の歌壇と画壇④絵師木下逸雲の雅交⑤二つの『観蓮記』⑥諏訪神社大宮司青木永章伝攷⑦近世後期長崎における煎茶道の興隆と舶来趣味、等である。 来たる研究最終年度においては、今までの長崎歌壇研究と上記の研究を一書に取り纏めることを計画しているため、そのための核となる論考の執筆に本年度は邁進したい。
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