研究課題/領域番号 |
15K21580
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研究機関 | 一関工業高等専門学校 |
研究代表者 |
鎌田 貴晴 一関工業高等専門学校, その他部局等, 助教 (50435400)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 擬火花放電 / アモルファスカーボン膜 / ラマンスペクトル / XPS |
研究実績の概要 |
本研究では大電流放電ありながら拡散した放電を形成する擬火花放電(PSD)に、水素原子注入用の誘導結合プラズマ(ICP)を追加したPSD/ICPハイブリッドプラズマCVD法を用いて、DLC膜作製時の成膜速度の向上を主な目的としている。今年度はICP用の電源を購入したが、まだPSD成膜装置への取り付け作業を行っていない。そこで、平成27年度はプロセスガスとして用いた水素希釈メタンガスの水素ガス流量および基板電圧の変化に対するDLC膜の特性変化について調べる基礎的な実験を行った。 H2ガス流量を変化させた際の膜特性の変化をラマンスペクトルから調査した結果、アモルファスカーボン膜と同様、GおよびDピークを持ったブロードなスペクトルが観測された。しかしながら、スペクトルのベースラインに蛍光成分がみられたことから、水素を多く含むポリマー構造の膜であることが予想された。また、H2のガス流量が増すとラマンスペクトルのGピークの位置が低い波数側にシフトしていたことから、膜中のsp3結合の割合は増加していることが予想される。 XPSを用いて、膜の構造およびsp3およびsp2結合の存在比に関して調べた。膜のC1sスペクトルから、炭素のsp3結合、sp2結合、カルボニル基、カルボキシル基の4つのピークから構成されていた。この結果から酸素との結合が確認された。また、sp3の存在比および膜硬度が水素のガス流量の増加に対してそれぞれ増加傾向にあることがわかり、相関関係があることがわかった。しかしながら、膜硬度の最大値は5.8GPaであり、DLC膜の硬度に達していなかった。 そこで、硬度の改善を目的に、基板電圧増加の効果について調べた。その結果、水素流量の増加に対して硬度が改善することを確認した。また、ラマンスペクトルにみられた蛍光成分についても減少を確認し、基板電圧増加の効果を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
プロセスガスである水素希釈メタンガスの水素ガス流量の増加によって、膜特性の改善および硬度の増加を確認した。しかし、ラマンスペクトルの特性からベースラインで傾きがみられる蛍光成分が確認された。これは膜中の水素含有量が多い、ポリマー状の膜が作製された可能性が考えられる。そこで、C-Cのダイヤモンド結合に比べて結合エネルギーが低いC-Hの結合を除去する目的で、基板電圧の増加の効果について調べた。これはイオンによるエッチングによって、水素原子の除去が目的である。その結果、基板電圧を増加させることで、膜特性・硬度が改善されていることがわかった。 以上の結果から、更なる膜特性の改善を目的に基板電圧の増加を試みた。具体的には基板電圧を最大で‐700Vまでを目標にしていたが、実際に電圧を上昇させると基板ホルダーと真空チャンバー間で放電が発生する問題が起きるとともに、基板を加熱するヒーターが放電時にダウンする問題が発生した。前者については、放電作動気圧が低気圧領域であるとともに、電極から撃ち出されたプラズマが接地状態のチャンバー内壁に拡散していることが理由として考えられる。今後は絶縁対策を施し、基板電圧上昇を実現させる予定である。また、後者のヒーターのダウンについては放電時にサージが発生していることが考えられる。この原因として、放電電極とホルダー間の短絡現象が起きている可能性も考えられた。これも低気圧領域での放電およびホルダー内のヒーターが接地状態であることが原因として考えられた。これについては、電源の形式をスイッチング方式のものを用いることで解決できた。 今後は基板電圧の上昇を実現させ、研究計画の遂行に取り組んでいく。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画を以下にまとめる。① 膜特性・硬度の改善(基板電圧の最適化)~基板ホルダーと真空チャンバーの絶縁対策を施し、基板電圧上昇を可能にする。その後、更なる基板電圧を増加させることで硬度10GPaを超えるDLC膜の作製に取り組むとともに、最適な基板電圧を調べていく。② 成膜速度・面積の向上(放電電流値上昇)~放電電流の増加で基板上のラジカル種の増加およびプラズマの拡散範囲が広がる。しかし、PSDは30 kA付近から放電がアーク化する報告が多い。そこで、現在の8 kAから増加させ、アーク化する電流値を調べる。また、放電電流に対する膜特性に与える影響について調べ、最適な電流値を調べる。③ 成膜速度・膜硬度・膜密度の向上(水素原子注入量の効果)~ICPの投入電力を調整することで水素原子の生成量を変化させ、基板付近の水素原子および炭素系ラジカルの密度の変化を計測する。また、これが成膜速度、膜硬度、膜密度、膜構造(sp3および水素割合)に与える影響について調べ、DLC膜の制御を実現させる。 以上の計画を実行し、最適な実験条件について調べていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
成膜した膜を分析した結果、水素の含有率が高いポリマー状の膜であることがわかった。そこで、基板電圧を上昇させることで膜中の水素をエッチングで除去する試みを行ったが、基板電圧を上昇させると、基板ホルダーと真空チャンバー間の短絡放電および基板ヒーター用の電源がダウンする問題が発生した。その対策のために時間を要するとともに、さらに基板ホルダーと真空チャンバー間の放電を防ぐために、両者の絶縁が不十分であることがわかった。このような問題が発生したために、当初の予定通りに研究計画が進まなかったことから、使用額に差が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度はまずは基板ホルダーと真空チャンバー間の放電対策のために、両者の絶縁機構を追加する。そこで、セラミックス製のホルダーおよび円筒形のリングを基板ホルダーを覆うように配置することで、短絡現象を防ぎ、基板電圧上昇を実現させる。また、本PSD-PECVDシステムへのICP機構の追加に伴って必要な冷却水のシステムを構築するために、物品を購入する予定である。その他、研究成果発表のための旅費に使用予定である。
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