本研究では,強磁性金属Fe3Si/半導体FeSi2人工格子による新規スピン注入素子を創製し,局所2端子型および非局所4端子型スピンバルブ効果を利用して,強磁性金属Fe3Siから半導体FeSi2への電気的スピン注入に取り組んだ.その結果,まず,局所2端子型スピンバルブ素子では,Si基板上に堆積させた強磁性金属Fe3Si層と,半導体FeSi2層の上に堆積させた強磁性金属Fe3Si層との間に,保磁力差の誘起を意味する特異ヒステリシスループを観測することができた.この素子で,面内方向に磁場を印加し,磁場掃引に伴う電気抵抗の変化を観測したところ,上向きのスピンバルブ信号が得られた.これは,強磁性金属Fe3Si層から半導体FeSi2層へとスピン偏極電流が生成され,もう一方の強磁性金属Fe3Si層でそのスピン流が検出できたことを意味する.しかし,一般的に,局所2端子型スピンバルブ効果によるスピン流(スピン偏極電流)には,AMR効果が混在している可能性が懸念されるため,次のステップとして非局所4端子型スピンバルブ効果が必須とされている.そこで,本研究の後半では,非局所4端子型スピンバルブ素子を創製し,同様に保磁力差の誘起を確認した後,磁場掃引に伴う非局所電圧の変化を観測したところ,下向きのスピンバルブ信号が得られた.これは,強磁性金属Fe3Si層から半導体FeSi2層へと純スピン流が生成(スピン蓄積)され,もう一方の強磁性金属Fe3Si層でそのスピン流が検出できたことを意味する.非局所4端子型スピンバルブ効果によるスピン流(純スピン流)には,AMR効果が混在している可能性は低いため,本研究で初めて,半導体FeSi2中へのスピン流の生成と検出に成功したと云える.
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