本研究では近年注目されている株価高頻度データの分析に関連して、高頻度データ特有の問題である「非同期観測」やマーケット・マイクロストラクチャー・ノイズを考慮した拡散過程の統計推測問題や関連する統計手法を研究している。本年度の研究では主として以下の結果を得た。 (1)昨年度構築したシンプルなブラウン運動の最尤型推定量を用いた一般の拡散過程の共変動のノンパラメトリック推定量について、この推定量の漸近挙動を理論的に解析し、ランダムなパラメータに対する中心極限定理を示すことで推定量の漸近混合正規性を示した。この推定量は重要な株価モデルの一つである確率ボラティリティ・モデルに対するシミュレーションにおいて既存の株価共変動の推定量よりも良いパフォーマンスを示しており、応用上の有用性が期待される。 (2)確率ボラティリティ・モデルや分子運動の方程式であるLangevin方程式の統計解析において重要な拡散過程の積分観測モデルの統計推測理論を研究した。一次元拡散過程ではGloter and Gobet (AIHP 2008)において統計モデルの局所漸近混合正規性と呼ばれる重要な性質が示されているが、彼らの証明では多次元拡散過程モデルへの拡張が困難であった。本研究ではJeganathan (Sankhya 1982)のアプローチを拡張することにより多次元拡散過程の積分観測モデルに対する局所漸近混合正規性を証明した。これらの成果はいくつかの学会にて報告を行った。 (3)昨年度までに執筆した拡散過程の非同期・ノイズ付観測モデルの最尤型推定量の漸近理論の論文について、改訂作業を重ね、国際雑誌Bernoulliへの採択を得た。
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