本研究の目的は、記憶定着を予測する学習中の神経科学的兆候を同定し、その神経科学的兆候を学習過程への介入によって操作することで、記憶の定着を最大化することである。昨年度実施した機能的磁気共鳴画像を用いた実験データから、学習中の神経活動に干渉を与える一定速度条件を加えた干渉群と、最大速度条件のみで学習を行う統制群における神経活動を比較した。結果として、海馬および後部帯状回といった宣言的記憶に関わる脳領域が、干渉群では終了時点で統制群に比べて活動量が有意に高い一方、翌日の再生時との比較では統制群の方が有意に大きな活動量上昇を示すことが明らかとなった。宣言的記憶システムにおける活動パターンが系列運動技能のパフォーマンスの変化と一致することから、宣言的記憶システムが系列運動技能の定着に寄与すると考えられる。今回明らかとなった宣言的記憶システムの活動を練習中に操作することで、記憶定着を最大化することが期待されるが、現時点でリアルタイムに神経活動をモニターする実験は実施できていない。 また、学習の結果としての記憶痕跡がどの脳領域に保持されるかを検討するため、学習中に起こるネットワーク変化を干渉群のデータを元に解析し、運動前野ー頭頂葉ネットワークで記憶情報の集積が起こることを明らかとした。この成果は運動技能の記憶痕跡を明示的に扱う手法として今後も利用できると考えている。これらの研究成果を平成28年度の北米神経科学会および日本ヒト脳機能マッピング学会にて発表した。
|