研究課題
本研究では、(患肢と対側の健常肢においても疼痛が出現する)ミラーイメージペインの発症に大脳皮質の神経回路再編が関与するか明らかにすることを目的としている。平成27年度の計画では、まず疼痛発症前後の患肢と同側の一次体性感覚野(ipsi-S1)における2/3層錐体細胞にGCaMP6fを発現したマウスを用い、錐体細胞の活動を計測(神経細胞におけるCa2+シグナルの振幅および発生頻度を坐骨神経部分結紮前後で比較)した。その結果、ipsi-S1において2/3層錐体細胞の活動が減弱していることを明らかにした。これまでの予備実験からipsi-S1において、抑制性神経細胞の活動亢進が認められており、この活動亢進が2/3層錐体細胞の活動抑制を誘発したと示唆された。さらに、この抑制性神経細胞の活動を薬理学的に抑制すると健常肢に慢性疼痛様の行動が誘発されるが、健常肢を刺激した際のipsi-S1における2/3層神経細胞の反応が変化しているか不明であった。したがって、2光子Ca2+イメージング法により前述の処置を施したマウスの健常肢への刺激に対する2/3層神経細胞の応答を計測した。その結果、神経細胞の反応も亢進しており、これまでの行動薬理学実験の結果を支持するデータを得ることができた。また、慢性疼痛モデルマウスのipsi-S1においてアストロサイトの活動亢進が認められているが、活動亢進機序は不明であった。したがって本研究では、慢性疼痛モデルマウスのipsi-S1におけるアストロサイトで代謝型グルタミン酸受容体5型(mGluR5)の発現上昇が生じているか免疫電子顕微鏡法を用い検討した。その結果、少なくともグリア細胞上(グリア細胞の突起)にmGluR5のシグナルが認められた。さらに、このmGluR5シグナルがアストロサイトで生じているか検討するため、mGluR5をノックアウトしたマウス(Glast-CreERT2×Flx-mGluR5)を用い同様の実験(免疫電子顕微鏡法によるアストロサイト上のmGluR5の局在解析)を進めている。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度では、1)疼痛発症前後のipsi-S1で(2/3層)錐体細胞の活動亢進が生じるかin vivo Ca2+イメージング法による検討を行った。その結果、慢性疼痛モデルマウスのipsi-S1において2/3層錐体細胞の活動減弱が生じていることを明らかにした。以上の結果をこれまでの研究成果と合わせて、前述の研究成果を第38回日本神経科学会、日本解剖学会 第75回中部支部学術集会、第8回アジア・オセアニア生理学連合大会(8th FAOPS)にて報告した。また、次年度に計画していた免疫電子顕微鏡法によるipsi-S1におけるグリア細胞上のmGluR5発現亢進の検討も既に開始している。したがって、おおむね研究計画通りに研究が進捗しており本研究課題は順調に進展していると考えられる。
本年度計画していた免疫電子顕微鏡法によるipsi-S1におけるアストロサイト上のmGluR5発現亢進の検討は昨年度から既に開始し、少なくとも疼痛モデルマウスのipsi-S1においてグリア細胞上にmGluR5の発現が認められる電顕像は得られている。これが疼痛モデルマウスのipsi-S1において有意に増加しているのか定量解析を進める予定である。また、アストロサイト膜上におけるmGluR5の発現上昇が慢性疼痛モデルマウスで生じていることを確実なものにするため、in situ hybridization法、免疫組織化学法および凍結割断レプリカ(以下、SDS-FRL)法を用い検討する予定である。上述の実験を進める上で、特にSDS-FRL法の実験手技向上、用いる抗体の選定および抗体の反応条件設定を進めている。アストロサイトの活動亢進が疼痛発症に関与するか、オプトジェネティクス法を利用した行動学的検証を行う予定であったが、申請書作成時(2014年)以降に申請者の所属の変更(生理学研究所→福井大学)があり、アストロサイト特異的にチャネルロドプシン2を発現したトランスジェニックマウス(Mlc1-tTA::tetO-ChR2-EYFP)の使用が難しくなった。したがって、代替案としてDREADDシステム(Designer Receptors Exclusively Activated by Designer Drugs)を用い、人工リガンド(CNO;クロザピンN-オキシド)でアストロサイトを人工的に活性化させ、さらにgabazineを持続投与した場合、健常肢に疼痛が惹起されるかvon Frey hairs testにより検討する予定である。
in vivo イメージングに必要な消耗品を購入せず自作したことと、加えて異動先の研究室に既に手術用実態顕微鏡等が備わっており購入を見合わせることができたため、費用を軽減することができた。したがって、以下使用計画に記す通り次年度計画している実験(SDS-FRLによるアストロサイト膜上のmGluR5の解析およびDREADDシステムを利用した行動薬理学実験)の消耗品の購入に充てる予定であるため次年度使用額とした。
平成28年度計画しているSDS-FRLを用いたアストロサイト膜上のmGluR5の解析に用いる一次抗体の選定や反応条件の検討に使用する抗体の購入費用に充てる予定である。さらに、DREADDシステムを用いアストロサイトの活動を制御し、行動薬理学実験を実施する予定である。この実験系を立ち上げるために動物、アデノ随伴ウイルス、人工リガンドの購入が必要であり、その費用に充てる予定である。
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