ポリADPリボシル化酵素の一つタンキラーゼは、テロメア長制御やWnt細胞増殖経路の制御に関わっていることが知られており、タンキラーゼ阻害剤はがん分子標的薬として現在非常に注目を集めている。そのためタンキラーゼの機能の全貌を解き明かすことが今後のがん研究、創薬研究を進めていくうえで重要となる。本研究ではタンキラーゼ新規機能の解明を目標とし、新規結合タンパク質Merit40を介したDNA損傷応答・修復反応におけるタンキラーゼの機能解析を進めてきた。 Merit40はBRCA1やBRCC3などBRCA1A複合体の構成因子であり、DNA損傷部位に局在することでDNA修復反応の一つである相同組換えの誘導を行う。そこで、タンキラーゼ阻害剤処理によってDNA損傷に対する細胞の感受性増強が起こるかについて肺がん細胞株A549細胞を用いて検討を行ったところ、X線感受性の亢進が見られた。同様の結果がタンキラーゼに対するsiRNAでも見られた。さらに、シスプラチン、アドリアマイシン、ブレオマイシン、カンプトテシン、エトポシドなどのDNA損傷誘導性抗がん剤に対しても同様の感受性増強が確認できた。このことは、タンキラーゼの酵素活性がDNA修復に寄与している可能性を示している。そこで次に、タンキラーゼが実際にDNA損傷部位に局在しうるのかについて免疫染色で検証を行った。FN-Tankyrase発現A549細胞を用いた免疫染色の結果、確かにタンキラーゼはDNA損傷応答タンパク質53BP1と共局在し、さらにsiMerit40処理時にそのフォーカス形成が失われることを確認した。以上の結果より、タンキラーゼはMerit40依存的にDNA損傷応答タンパク質複合体の構成因子として働き、DNA損傷応答-修復反応経路の活性化に対して重要な役割を持つことが示唆された。
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