本研究は、家畜育種の分野で発展した最良線形不偏予測(BLUP)法および制限付き最尤推定(REML)法について、チモシーを用いて牧草育種への適用を検討した。 DNAマーカーにより血縁関係の調査をした結果、チモシー育種事業で選抜された個体の父親に偏りがあることが明らかになった。その中には収量性が劣る親も含まれることから、DNAマーカーを用いた父子検定による選抜により収量性改良の余地があること、DNAマーカーにより選抜後の親の偏りの矯正に利用できる可能性が示された。 親子同時検定試験で、年3回の刈取り調査を行い、年間合計乾物収量、出穂始、1番草WSC、1番草のOb/OCWの従来法での遺伝率と育種価を算出した。親子回帰により推定した狭義の遺伝率は、それぞれ、0.06、0.74、0.30、0.32であった。 BLUP/REML法により出穂始と飼料成分の遺伝率を推定した結果、0.53~0.68と比較的高い値であり、従来法による広義の遺伝率と狭義の遺伝率の中間の値であった。反復率(多環境データの全分散中に占める遺伝分散の割合)に近い値であると考えられた。多形質モデルによる収量の遺伝率は、0.34であった。育種価の予測は、従来の後代検定試験を省略できるほどの予測精度ではなかったが、従来の母の一般組合せ能力(GCA)からの予測よりも精度は高く、母親と父親のGCAからの予測よりも精度が高い傾向がみられた。以上より、牧草(チモシー)の育種において、BLUP/REML法は、遺伝資源のスクリーング、従来は評価が困難であった形質の遺伝解析に利用できると考えられた。
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