昨年度までの研究で、C3Hマウスへの妊娠期無機ヒ素曝露によって、多世代で増加する肝腫瘍には、F1ではp21の増加、F2ではTgf-β経路の活性化によるp15の増加を介した細胞老化の増加が関わることが示唆された。本年度はまず、妊娠期ヒ素曝露によるF1の74週齢肝腫瘍組織におけるp21増加の機序を検討するため、F1の74週齢肝腫瘍組織において酸化ストレス除去酵素の遺伝子発現量を測定した。その結果、Sod1、Sod2、Gpx1、Catの遺伝子発現量が、ヒ素曝露群において対照群と比較して有意に低下していた。このことから、F1の妊娠期ヒ素曝露による肝腫瘍組織におけるp21の発現増加は酸化ストレス除去酵素の発現低下による酸化ストレスの増加による可能性が考えられた。この酸化ストレス除去酵素の低下が、曝露後どの段階からおこるかを明らかにするためにF1のGD18、23-25週齢の正常肝組織において、活性酸素除去酵素の遺伝子発現量を測定した。その結果、F1のGD18においてSod2の遺伝子発現量がヒ素曝露群で対照群と比較して有意に減少していた。しかし、その変化は23週齢では観察されなかった。F1のGD18におけるSod2の発現低下は後発的な腫瘍形成の促進に関わる可能性が考えられるが、生後継続して維持されるものではないことが明らかになった。 一方、妊娠期ヒ素曝露を行ったF2の80週齢肝腫瘍組織におけるTgf-β経路の活性化に関しても、GD18および11-13週齢における正常肝組織の遺伝子発現量を測定し、経時変化を観察した。その結果、対照群とヒ素曝露群の間でTgf-β経路の遺伝子発現変化は観察されなかった。このことから妊娠期ヒ素曝露によるF2肝腫瘍組織におけるTgf-β経路の活性化は、腫瘍特異的な作用であり、何らかの形でその経路を活性化させることが示唆された。
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