研究実績の概要 |
福島県内において放射線の年間積算線量が高い帰還困難区域に生息するアカネズミ(Apodemus speciosus)を対象に、放射線が生殖細胞におけるDNAの突然変異を通じてアカネズミ個体群内の遺伝的構造に及ぼす影響を明らかにするため、RADシーケンス法を用いた変異解析手法の確立を行った。 解析は、放射線汚染地域として福島県の帰還困難区域内、対照地域として富山県立山町および青森県十和田市からすでに採集済みのアカネズミ24個体のゲノム(福島 12個体、青森 6個体、富山 5個体、および全ゲノム配列の解析に用いた1個体)を用い、2つの制限酵素SbfI、SphIを使用したddRAD (double digest Restriction Site Associated DNA Sequence)法を実施した。 シーケンスにより得られた総配列数はフォワード配列、リバース配列それぞれ27,116,000配列であった。塩基エラー確率が0.1%であるQ30以上のクオリティを示した1から150bpまでの配列を以降の解析に使用し、解析プログラムStacks (Catchen et al., 2013)を用いて、SNP(1塩基変異)検出を行った。各配列のカバレージは平均80で、SNPの検出には十分なデータ量が得られた。24サンプルで共通して得られた配列として、配列内に1つのSNPを有する配列が2,852、2つのSNPを有する配列が2,881であり、得られたSNPマーカーサイト数は8614であった。個体ヘテロ接合度(SNPマーカーサイトのうち、ヘテロ接合であったサイトの割合)を求めたところ、平均 0.0574 (±0.0060:標準偏差)であり、現時点では地域・年による差異は認められなかった。今後、サンプル数を増やす必要があるが、アカネズミのゲノム変異解析手法の手順を確立することができた。
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